退職後年収は退職直前年収が決める
退職後の生活費水準(海外ではRetirement Income と呼ぶため、ここでは退職後年収とします)は、日本では「ゆとりある生活に月額35万円必要」とか、「一般的には25万円必要」といった定額で議論されることが多いのですが、英米では退職直前年収に対する比率(Target replacement rateとかIncome replacement rateと呼び、ここでは目標代替率とします)で議論することが多いものです。
フィデリティ退職・投資教育研究所では、これまで“年収が上がるほど退職後の生活資金必要額が増える”傾向をアンケート調査の結果から紹介し、この「額」で考える退職後年収を「率」で考えるように提唱してきました。
その実例として、2009年の家計調査をもとに68%の目標代替率を示してきました。しかし、海外ではさらにこの目標代替率は年収帯毎に違っているという実証分析がなされてきました。今回のアンケートではそれを行えるように、退職直前年収と退職後に必要となる生活費を聞き、分析を行いました。
結果は退職直前年収が250万円以上300万円未満の場合には目標代替率は90.5%、450万円以上500万円未満で74.2%、750万円以上1,000万円未満で47.6%となりました。日本でも海外と同様にこうした分析がもっと必要になってきたと思われます。
「公的年金以外に必要な資金」に大きなギャップ
この目標代替率をもとに退職直前年収で400万円以上750万円未満の層を中心に分析すると、退職後年収は平均で335万円程度になります。その一方で、アンケート調査では、公的年金の受給額を聞いています。65歳以降でみるとこの水準はほぼ200万円となりました。
すなわち、この2つの水準から、退職後年収のうち公的年金以外に必要としている金額は135万円程度とみることができます。
一方で、アンケートでは直截的に「公的年金以外に必要な資金はどれくらいですか」とも聞いています。この平均値は229万円です。前者の推計値とはほぼ100万円の差が出ており、大きなずれが認識できます。
この差は、どこから出てくるのでしょうか。退職後年収が回答した以上にかかる懸念を持っている可能性があります。特に医療費は4割以上の人が懸念する支出に上げていますから、この点を織り込んでいるのかもしれません。
また逆に公的年金の支給額が年間200万円よりも大きく減ると考えている結果かもしれません。実際、アンケート回答者の8割が公的年金は安心できないと回答しています。
背景はともかく、そのギャップの大きさは、退職後のライフプランに大きな影響を与えると思われます。
ちなみに、公的年金以外に130万円の資金が必要だとすると、65歳以降30年間の必要総額は3,900万円と推計できます。また230万円であれば6,900万円となります。使いながら運用する時代も含めて、いかに資産の寿命を延ばしていくかを念頭に、運用のみならず引き出し方も含めて検討する必要があります。
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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史