米国ネット企業が覇権を握れない中国。中国発ネット企業の思惑とその脅威とは

皆さんの多くは、Facebook(フェイスブック)、Google(グーグル)、Amazon(アマゾン)、LINE(ライン)といったネットやスマホのサービスをお使いだと思います。もはや生活の一部だという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

では、WeChat(ウィーチャット)やAlipay(アリペイ)はどうでしょうか。おそらく、日本人の間ではほとんど使われていないと思います。

中国国内では、冒頭にあげた米国など海外大手ネット企業のサービスの多くは禁止されているのが実情です。ただ、中国発のネット企業がそれらと同様のサービスを提供しています。

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「なんだ、中国だけのサービスか」とお考えかもしれませんが、既に世界全体のネット上取引の40%は中国国内で行われています。そして、その取引は中国発の巨大企業によって独占されています。今日はそうした環境に隠れている脅威について考えたいと思います。

グローバルネット企業大戦争! FANG vs. BATとは

海外の「そっくり」サービスから始まった中国発ネット企業も、今や本家本元を追い上げる存在になってきてます。

本家本元とは、株式市場で「FANG」と言われる米国の企業群で、Facebook、Amazon、Netflix(ネットフリックス)、Googleの頭文字をとったものです。ただ、それらのサービスを中国で使うことはできません。

それに対して、「そっくり」サービスを提供するのは「BAT」と言われる企業群で、Baidu(バイドゥー)、Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)です。

中国は13億人超の人口を抱えていますが、ネットユーザーはその半数以上を超えています。また、その90%以上はモバイルユーザーであり、中国国内だけで十分な市場ポテンシャルがあります。

中国では、著作権や知的財産権も軽視される傾向があり、コンテンツだけではなく、機能のコピーや導入スピードが速いというのはこれまで様々なところで指摘されてきたと思います。

しかし、中国に関しては見落としてはいけない大きなポイントがあります。それは、中国のネットは検閲を受けており、中国政府の支配下にあるともいえる点です。

また、政府による検閲対象語は広がり続けていることでしょう。その一方で、利用者は「隠語」を生み出し、検閲に引っかからないようにしているので、検閲とのいたちごっこになっているともいえます。

では、中国ではネット上でやり取りしたデータはどのように扱われているのでしょうか。

仮に中国にある政府管轄のサーバーを通るとすれば、情報は全て政府に筒抜けだといえます。ユーザーにとってそうした環境は決して居心地の良いものではないはずです。

ただ、そうしたネット環境は国家レベルで考えれば戦略的に産業育成などを展開するのに最適な環境だったりもします。

中国のテクノロジー戦略:データ活用が未来を決める

ビックデータ、AI、そしてIoTは今を象徴するトレンディな言葉ですが、それらに共通することがあります。それは、とにかく価値のあるデータの蓄積が必要だということです。まさに、「データは宝なり」です。

また、そうしたデータを大量に収集、蓄積、そして活用しようとした際に、優位にあるという点では中国を外して考えることはできません。一方で、個人保護に関する意識に対しては、中国は先進国では考えられないくらい低いレベルかもしれません。

また、圧倒的な支配力を持つ政府、そして巨大で大きな力を持つ民間企業の存在は当然ながら意識せざるを得ません。

中国とAI(人工知能)

たとえば、AIの分野を考えてみましょう。

中国は、2017年7月に「次世代AI発展計画」を発表し、2020年には1兆元規模のAI主要産業を育成すると明言してます。そして2030年にはAIの様々な領域で、世界のトップを目指すとしています。

中国国内では、中国発企業が圧倒的な強さを誇ってます。それは、競合相手で先駆者である海外の企業、GoogleやFacebook、Amazonなどが排除されているからです。

そして、今後は様々なネット上の決済は中国人民銀行が管理するプラットフォームを介する流れとなっていきます。すでに、スマホ電子決済最大手のアリペイなどは、携帯電話番号、個人の住所や名前、パスポートの顔写真など、個人情報を渡さないと利用できません。

2017年春の上海での体験は衝撃的でした。普通のレストランではアリペイしか使えず、海外のクレジットカードや現金は受け取らないのです。また、タクシーも呼べず、当然ながら乗れません。

結局、現地の中国国籍の仕事仲間が全て立て替えてくれました。こうしたことから中国政府が、国民全ての動向を観察し、データを蓄積しようとする並々ならぬ決意を感じました。

一方で、とても便利な面もあります。お財布携帯機能、友人への送金、割り勘支払い、口座へのリアルタイムチャージなどができ、銀行よりも利息が高いと、使い勝手では良いことづくめです。

ただ、その裏にあるのは、個人情報すべての提供です。そして、民間と政府がその巨大なデータ群を使い、AIの世界を支配する日もそう遠くないかもしれません。考えれば考えるほど、末恐ろしくも思えます。

フィンテックという言葉で、何かユーザーが便利になることだけが強調されがちですが、現金がこれまでのように使いにくくなった世界には、そうした環境も待ち構えているということを念頭に置いておくべきです。

中国には欧米にはあり得ない強さがここにあります。AIの世界では、とにかく膨大なデータの蓄積が大前提だからです。

民主主義の先進国では、中国のように自由に個人のデータを収集し、自由に使うことは実質的に不可能です。こうしたことを考えると、中国企業には競争優位があるといえてしまう恐ろしさがあります。

中国とEV(電気自動車)

自動車産業でも、中国政府は一気に世界のトップに躍り出ようと色々策を練ってきています。外資の自動車メーカーは中国企業とJVを組まないといけないこと、中国現地生産の優遇、世界一厳しい環境規制の導入などです。

それでも、エンジンの仕組みは奥深く、簡単に真似できるものではありません。中国市場での海外勢の引き続き高いシェアが、政策の失敗を裏付けているともいえます。

しかし、環境規制が追い風になり、一気にEV(電気自動車)の時代が近づいてます。EVになれば、構造的にはモーターやインバーター、それに電池を搭載するだけというのは言い過ぎですが、ガソリン車とくらべるとアーキテクチャがシンプルな分だけ、中国車が国内でシェアを高める日はそう遠くないかもしれません。

中国の産業育成における弱みは

AI時代に世界のトップになるためには、中国はAIチップを国産にする必要があります。すでに、中国政府はAIチップでも世界トップになることを重要視してます。

AIチップでは、米NVIDIA(エヌヴィディア)のGPU(グラフィック処理ユニット)が有名ですが、中国からすれば遥かに性能が優れた中国製品に切り替えたいところでしょう。

そもそも半導体チップを外国製に依存するのを避けたい理由としては、AI産業を自国で育成したいという思いもあるでしょうが、半導体は軍事用や監視用にも使われます。自国で開発したいというのは安全保障を考慮する際には中国に限った話ではないでしょう。

米国はこの半導体という心臓部の技術を中国に渡すことは避けたいと考えているのではないでしょうか。すでに、米国は中国資本が絡むM&Aを警戒しています。

まとめにかえて

巨大な市場を持ち、猛スピードでデータを蓄積する中国の官民体制。これに、真正面から太刀打ちできる国はないでしょう。データは宝であり、それを自由に扱える中国。これが最大かつ最強の差別化要因です。

近未来のAI時代に中国がトップとして君臨すれば、その経済力のみならず、政治力、軍事力のさらなるパワーアップにつながるリスクが大きいのではないでしょうか。

LIMO編集部

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LIMO編集部は、国内外大手証券会社で証券アナリストや運用会社のファンドマネージャーとして長年の調査や運用経験を持つメンバーを中心に構成されています。金融・経済ニュースや投資に関する知識・アイデア、ビジネスパーソンの役に立つ情報ををわかりやすくお届けします。