働こうとした矢先に流行した「新型コロナウイルス」

それからしばらくの間、うつ病の症状に悩まされていた小林さん。

「毎日命を絶ちたいと思っていました。しかしある時、『貯金を使わないともったいないな』と考え、好きなことにお金を使おうと決めました」と当時を振り返ります。

500万円ほどの貯金を使い切るため、趣味の美術館巡りを始めたものの、他の意欲がなく貯金は全然使えません。まったく手持ちが減らないので、何もせずに何年暮らせるかを計算し、なんとなく毎日を過ごしていたそう。

そんな生活を続けて4カ月。徐々に症状が軽くなってきたと感じた小林さんは、働くために動き出します。

Wirestock/istockphoto.com

「ストレスのない環境で4カ月過ごしていたので、時間経過とともに症状が和らぎました。一つの区切りとして、テレビで観て興味を持ったフランスへ旅行して、帰国後に働き口を探そうと考えました」と小林さんは話します。

航空券とホテルを予約するも、旅行直前の2020年4月上旬にさらなる悲劇が襲いかかります。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し、旅行どころではなくなってしまったのです。

楽しみにしていた旅行をキャンセル。コロナ禍で外に出歩かなかったため、何もしない生活のまま日々が流れていきました。

家族からの言葉がきっかけで仕事を探す

小林さんの心境に変化が現れたのは、暑さが本格化してきた2020年8月。日々の生活で発生する、小さな問題に固執してイライラするように。そんな様子を見かねた兄弟から「仕事を探してみたら」と言われ、職探しを始めました。

「もともと興味のあった、美術館の販売スタッフの求人があったので応募。すぐに採用されて契約社員として5カ月間、働くことになりました。週5出勤だったので、家族から心配されましたが、ブランクがあっても意外に働けるなと思いましたね」と小林さんは説明します。

前職での反省を生かし、「無理をしすぎない」「仕事を請け負いすぎない」「必要以上に頑張りすぎない」という3つのポイントを意識したそう。

5カ月間の契約を終えると、適度な休憩を挟みながらアルバイトを開始。さまざまな職種を経験し、事務職として働きたいと考えた小林さん。約1カ月の就職活動を行い、医療系の事務職として働くことになりました。

医療系の事務として働いて約2年。現在の職場はテレワークで、ほぼ定時上がり。仕事とプライベートの両立もでき、心も安定しているそうです。

小林さんはうつ病期間を振り返り、「先も見えないですし、本当に辛かったです。前のように生活できるまでの、期間やきっかけは人それぞれ。仮にうつ病になったとしても焦ったり人と比べたりしないで、自分が心地よく暮らすにはどんな条件があっているかをぼんやり考えるのが良いと思います」と笑顔で話してくれました。

小野田 裕太