これから年金受給を開始する方の中には、「年金だけでは生活していけないかも…」と不安を感じている方もいるでしょう。

実際に、生命保険文化センターが行った調査結果によると、「老後生活に不安がある」と回答した方は82.2%にも上り、具体的な不安な内容として「公的年金だけでは不十分」という回答が最も多くなっています。

年金額を増やすためには、収入を増やしたり貯蓄や投資などで資産運用をしたりする方法がありますが、「年金の繰下げ受給」を利用しても年金額を増やすことができます。

この記事では、年金の繰下げ受給について制度内容を解説するとともに、特に夫婦で繰下げ受給を選択する際の注意点についても詳しく紹介します。

1. 「年金の繰下げ受給」とは

まずは、年金の繰下げ受給の制度内容について確認しておきましょう。

厚生年金や国民年金は2023年8月現在、原則として65歳から受給開始となりますが、66歳から75歳までの間に繰下げて受給開始することもできます。この制度を「年金の繰下げ受給」といいます。

受給開始を1ヵ月繰下げるごとに0.7%が増額され、増額率は一生涯変わることがありません。増額率は以下の計算式で求めます。

1.1 繰下げ受給の増額率

増額率(最大84%)=0.7%×[65歳に達した月から繰下げを申し出た月の前月までの月数]
※昭和27年4月1日以前生まれの方や平成29年3月31日以前に年金受給権が発生している方は、繰下げの上限が70歳までで増額率は最大42%

下表は、繰下げ受給を請求するときの年齢と増額率の早見表です。

一覧表からわかる通り、75歳まで10年間繰下げた場合、最大で84%が増額されます。

なお、年金の繰下げ受給は厚生年金と国民年金を別々に行うことができます。

そのため、国民年金は65歳から受給を開始し、厚生年金のみを繰下げ受給することもできるのです。

このように、繰下げ受給を利用すると年金額が増額されるため、積極的に利用したいと考える方もいるでしょう。

しかし、繰下げ受給は年金額を増やすことができる一方、受給する方の状況によってはかえって損してしまう可能性もあります。

では、年金の繰下げ受給をする場合にはどのようなことに気を付ければよいのか、特に夫婦で繰下げをする場合の注意点について、次章から解説していきます。

2. 夫婦で繰下げ受給をする場合の注意点3つ

夫婦で年金の繰下げ受給をする場合には、次の3つの点に注意しましょう。

2.1 繰下げ期間は「加給年金」が受給できない

年金を繰り下げている期間は、加給年金が受給できません。

加給年金とは、厚生年金保険に20年以上加入していた方で、65歳到達時に生計を維持している65歳未満の配偶者や18歳到達年度の末日(一般的に高校卒業)までの子どもがいる場合に加算されるものです。

厚生年金における「家族手当」と考えると良いでしょう。

加給年金額は配偶者が22万8700円(受給者の年齢に応じて加算あり)、第1子・第2子がそれぞれ22万8700円で、第3子以降が7万6200円です。

たとえば、5歳年下の妻がいる方の場合、5年間で114万3500円の加給年金が加算されます。
しかし、繰下げ受給を選択した場合は加給年金が受け取れないため、100万円超の加算額を逃してしまうことになるのです。

国民年金だけ繰り下げるのもひとつの方法

年金の繰下げ受給をしたいけれど加給年金も受け取りたいという場合は、厚生年金を原則通り65歳から受給し、国民年金のみを繰り下げる方法があります。

というのも、加給年金は厚生年金に付随したものなので、国民年金の受給額には影響がないためです。

2.2 保険料や税金が増額する可能性がある

年金の受給額が増えると、それに伴い国民健康保険料などの社会保険料や所得税や住民税といった税金も増額することが考えられます。

年金支給額(額面)がたとえば42%増額したとしても、社会保険料や税金などを天引きした「手取り額」が42%増額するわけではないのです。

そのため、思ったよりも増額されないと感じる可能性もあります。

2.3 寿命によっては受給総額が少なくなる

繰下げ受給により年金受給額を増やすことができる反面、受給開始時期は先送りになります。

そのため、年金を受け取る方が何歳まで生存できるかにより受け取れる年金総額が異なり、寿命によっては原則通り65歳から受給したケースよりも総額が少なくなる可能性があります。

とはいえ、寿命に関してはだれにもわかることではないため、「もしかするとかえって損する可能性もある」ということを理解したうえで繰り下げる期間を検討することが大切です。

3. 夫婦の繰下げ受給のまとめ

年金の繰下げ受給をすると1ヵ月ごとに0.7%が増額され、最大で84%もの増額が可能です。

しかし、繰下げればそれだけ得するというわけではなく、寿命によってはかえって受給総額が少なくなってしまったり、保険料や税金も高額になったりするなどの注意点があります。

また、加給年金が受給できなくなるというデメリットもあることから、夫婦で年金を繰り下げる場合は加給年金の受給資格などを確認のうえ、繰下げの利用の有無や期間などを検討する必要があるでしょう。

参考資料