列車の雑音やゆれが消えた理由は、線路から継ぎ目が消えたから
「もしかして、『腐女子』ってアニメやゲームの好きな女の子のことだと思ってない?」
「えっ、ちがうの!?」
おとなのほうが子どもより長く生きているので、もの知りなのは当たり前です。しかし何事にも例外はあり、ときには子どものほうが詳しいこともあります。
「フジョシ」の語も婦女子を指しているとは限らず、腐女子のときもあります。近年できた言葉ですが、漢字表記までは知っていても、正確な意味までは知らないおとなは少なくありません。
「腐女子」の正確な意味は、BL(ボーイズラブ)つまり同性愛の男子を描いたアニメなどを好む女子、あるいはBLの男子を愛する女子だそうです。
子どものほうが詳しいといえば、線路もその一つと言えそうです。
その昔、列車が走る様子を表す擬態語としてよく「ガタン、ゴトン」、あるいは「ゴトゴト」が用いられていました。列車は揺れながら音を立てて走るものだったからです。
ところが最近は、とりわけ都心を走る私鉄から音が消え、ゆれも消えつつあります。
その理由を説明するのは、小4の孫。得意げに、まだ若い祖母に知識を披露していました。
「線路のレールに継ぎ目がなくなったからだよ」
ロングレールってどんなもの?
メーカーから出荷されたレールは通常25mか50mで、これを定尺レールと言います。定尺レールは溶接され、200mのレールにして線路に運ばれます。25~200mのレールは、長尺レールと言います。
現場に運ばれた長尺レールは、さらに溶接され、より長くなって敷設されています。
この200mを超えたレールを、ロングレールと言います(鉄道総合技術研究所)。列車から雑音やゆれが消えた理由は、ロングレールを用いる線路が増えたからです。東北新幹線のいわて沼宮内~八戸間のロングレールは、60.4kmにも及ぶそうです。
従来は、定尺レールのままで繋いでいたので、継ぎ目の数も多くなります。列車の音やゆれの多くは、この継ぎ目を通るときに発生するのです。したがって長尺レールやロングレールにすれば、継ぎ目が減るので、音やゆれは減っていくというわけです。
だったら最初から長尺やロングのレールにすればいいのに、とは誰でも考えます。実際、地下鉄やトンネルなどでは従来からロングレールが使用されています。夏と冬など、温度差が小さいからです。
鉄は、熱いと膨張し、寒いと縮小します。膨張と縮小の差を考え、短いレールとレールの間に隙間を開けて繋いでいたのです。そうでないと膨張したときにレールが歪んでしまいます。
その後、レールの伸縮に関する研究が進み、また伸縮継目の開発もあり、ロングレールの使用が広がってきたのです。
最低でも10車両分あるロングレールの運搬・敷設はどうする?
通常の電車は、1車両が約20mです。200mの長尺レールは、10車両分に相当します。
このように長いレールを、どうやって敷設現場までどうやって運ぶの!?
誰でも気になります。
JR東海には、長尺レールを運搬する専用の車両があるようです。ちょっとしたことでも大事故につながりかねない新幹線では、より慎重に扱う必要があります。
また同社には資金力に余裕がありますが、一般の鉄道にはそこまでの資金力はないそうです。もちろん新幹線ほどの慎重さまでは求められていないこともあります。そこで貨物列車を改造したチキ車という車両を使って、溶接工場から敷設現場に運んでいます。
ところで、線路にもカーブはあります。日本の鉄道はとくにカーブが多いのです。カーブ個所の運搬、敷設はどうするのでしょうか。これも気になります。
鉄製のレールは固くて直線というイメージがありますが、実は曲がるのだそうです。おまけにレールの幅は約14㎝。細長い金属線だと思えば、納得できます。運搬中のカーブや敷設のカーブに対応するくらいの弾力性はあるということです。
ロングレール化にはメリットが多いけれど・・・
ロングレールのメリットは、音やゆれがないだけではありません。保守点検のコストも下げられ、歪みによる支障も少ないため、鉄道各社はロングレール化を進めています。
快適、コストダウンをもたらすロングレール化に反対する人はいなさそうです。しかし、かつての「ガタン、ゴトン」と音を立て、ゆれながら走る列車を懐かしむ声もないわけではありません。
間宮 書子