筆者は普段、個人の資産運用に関する相談業務を行っているのですが、最近は若い世代の方々から「老後の年金だけでは不安なので投資を考えたい」という相談を多く受けます。

セカンドライフの収入の柱となる公的年金ですが、老後の生活費はまかなえると考えている方はどのくらいいるのでしょうか。
生命保険文化センターが、20~70歳代を対象に行った調査によると、公的年金だけで老後の生活費を「まかなえるとは思わない」人が73.9%という結果となりました。

やはり、将来の年金生活に不安をもっている人が多いということが、数字でも確認できましたね。

今回は、いまの60歳代が受け取っている公的年金「国民年金・厚生年金」の受給額を確認していきます。年金生活をイメージしながら、セカンドライフに向けて何が必要かを一緒に考えていきましょう。

【注目記事】60歳代で「貯蓄4000万円以上」の世帯はどれくらい?平均は2537万円

1. 【60歳代】国民年金・厚生年金の受給額

いまの60歳代の人は、「国民年金・厚生年金」をどれくらいもらっているのでしょうか。厚生労働省の「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」で確認していきます。

1.1 「国民年金」受給額(月額)を確認

自営業やフリーランス、専業主婦などが受給する「国民年金」から見ていきましょう。

国民年金の保険料は一律です。保険料を全期間(480ヶ月)納めた場合は、満額の月額6万6250円(2023年度)を受給することができます。未納がある場合には、その期間分が減額される仕組みになっています。

出所:厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

【60歳代:国民年金の平均受給額(月額)】

平均:5万7739円

  • 65歳:5万8078円
  • 66歳:5万8016円
  • 67歳:5万7810円
  • 68歳:5万7629円
  • 69歳:5万7308円

老齢年金の受給開始年齢は原則65歳以上です。60歳から65歳未満で年金を受け取る場合は、繰り上げ受給といって受給額が減額されてしまいます。

ここでは、65歳以上の年金受給額についてみていきます。

国民年金の平均受給額(月額)は、5万7739円でした。

生活水準は人により異なりますが、国民年金だけの収入で生活するのは難しいと考える方の方が多いのではないでしょうか。

1.2 「厚生年金」受給額(月額)を確認

つづいて、公務員や会社員が受給する「厚生年金」の月額を見ていきましょう。

出所:厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

※国民年金部分を含む

【60歳代:国民年金の平均受給額(月額)】

平均:14万3613円

  • 65歳:14万5372円
  • 66歳:14万6610円
  • 67歳:14万4389円
  • 68歳:14万2041円
  • 69歳:14万628円

厚生年金は現役時代の年収や加入期間によって差が生じます。また、受給額には国民年金の金額が含まれていることには注意が必要です。

いまの65歳以上の方が受け取る厚生年金の平均受給額は14万3613円ということがわかりました。物価上昇が著しいなか、年金だけで十分に生活費をまかなえると考える方は多くはなさそうですね。

1.3 年金見込額を確認しよう

将来どのくらいの年金額がもらえるかは「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」にて確認することができます。

「ねんきん定期便」は毎年の誕生月に郵送で届きます。これまで見たことがないという方は、「1年に1度、老後の生活を考える良い機会」ですので、ぜひ確認してみてくださいね。

確約された金額ではありませんが、大まかな金額を把握することで、老後に向けて何をすべきかが見えてくるでしょう。

50歳以上実は記載されている受給見込額はあくまでも「額面」であり、満額もらえると思いきや、公的年金からも天引きされるお金があるのです。

2. 老齢年金から天引きされているもの

平均の年金受給額を見てきましたが、「少ないな」と感じた方が多いのではないでしょうか。

実は、公的年金からも保険料や税金が天引きされるため、手取り年金額はさらに減ってしまいます。

年金受給が開始した時に、実際の振込額が「思っていたより少ない」とガッカリされる方も少なくありません。年金から天引きされるものについて、確認しておきましょう。

2.1 「天引きされるお金」その1:介護保険料

年金年額が18万円以上の場合は年金から介護保険料が天引きされます。

40歳からは健康保険料に上乗せして介護保険料を納めていますが、65歳以降は「介護保険料」を単独で支払うことになりますので、おさえておきたいポイントです。

2.2 「天引きされるお金」その2:健康保険料

国民健康保険料や、75歳になると全ての人が加入する後期高齢者医療保険料なども年金から天引きされます。

介護保険料が天引きされていることが条件となり、市町村によっては口座振替に変更できるケースもあります。

2.3 「天引きされるお金」その3:税金(所得税・住民税)

所得税や住民税などの税金がかかるケースがあります。

年金受給額やその他の所得、また控除されるものにより個々で事情が異なりますが、税金も天引きされることを把握しておきましょう。

老後にも色々なお金が天引きされることがわかりましたね。現役時代にお給料から色々と引かれて、手取りが少ないなと感じた方は多いのではないでしょうか。老後も差し引かれるお金があることはいまから把握しておきたいポイントといえますね。

3. 【老齢年金世代】生活費は平均いくらなのか

住宅ローンや教育費などの大きな支出が減ってくる60歳代からの生活費は、どれくらいかかるのでしょうか。総務省統計局の「家計調査(家計収支編)調査結果」で確認していきます。

出所:総務省統計局「家計調査(家計収支編)調査結果 2021年(令和3年)」

【65歳以上の夫婦のみの無職世帯の支出】

  • 消費支出:22万4436円
  • 食料:6万5789円
  • 住居:1万6498円
  • 光熱・水道:1万9496円
  • 家具・家具用品:1万434円
  • 被服及び履物:5万41円
  • 保健医療:1万6163円
  • 交通・通信:2万5232円
  • 教育:2円
  • その他:4万6542円
  • 非消費支出:3万664円

支出合計:25万5100円

65歳以上の夫婦のみの世帯の平均生活費は、毎月25万5100円でした。

65歳で夫が厚生年金、妻が国民年金を受給している世帯と仮定してそれぞれ平均受給額で見てみると、世帯の年金収入は月額20万3450円です。

  • 夫(厚生年金):14万5372円
  • 妻(国民年金):5万8078円
  • 世帯の年金収入合計:20万3450円

世帯の年金年収「20万3450円」から65歳以上の夫婦のみの世帯の平均生活費「25万5100円」を引くとマイナス5万1650円となります。毎月、約5万2000円もの不足額を、貯蓄から取り崩さなければいけません。

この他にも、自宅の修繕費や医療費など、支出が増える可能性もあるでしょう。

セカンドライフに向けて、少しでも多くの貯蓄を準備しておきたいものですね。

4. 公的年金にプラスの備えを

物価上昇がとまらず公的年金がふえないいま、老後の生活収入が公的年金のみの場合は、厳しい現実と向き合うことになりかねません。そこで準備したいことが、厚生年金や国民年金とは別に自分でつくる「私的年金」です。

初心者でも始めやすいと言われる「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や個人年金保険など、税制面でメリットを享受できるものを少しずつ始めてみるのも一案でしょう。

また、年金見込額を把握しておくことも大切です。そこから、どれくらい天引きされ、実際にいくら受け取ることができるのか。より具体的に想定して、マネープランを考えていきたいですね。

自分が想像するゆとりあるセカンドライフを目指すために、まずは情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。

参考資料

田中 友梨