FX(為替)トレードと経済指標発表は切っても切れない関係にあります。金融市場の中でも、特に指標発表で相場が大きく左右されることで知られているのが為替市場です。
トレードの際、為替市場が大きく動く可能性のある指標発表の前後ではポジションを持たない、という選択肢もあります。しかしながら指標発表が為替市場を動かす原動力、という側面も有しているため、指標発表をトレードに利用することができれば、FXトレーダーとして着実な前進を遂げることができます。
今回はFX(為替)トレードを行うにあたり、切り離すことができない経済指標発表の使い方を取り上げました。
若干、中~上級者向けの内容も含みますが、指標発表と為替市場の奥深い世界の一端をご覧いただけますし、既にトレードを手がけている方ならトレーダーとして新しい世界が開けるかもしれませんよ。
目次
1 指標の前後のトレードは避けるのがセオリー
2 指標発表は値動きを加速する
3 FXをするなら覚えておきたい。代表的な3つの指標
3.1 FOMC他、金利及び中央銀行の発表
3.2 雇用統計他の雇用関係指標
3.3 小売売上高
4 指標を具体的にトレードで利用する方法
5 相場のゴール設定が最も難しい部分
5.1 サポート&レジスタンスを中心とするライン分析
5.2 フィボナッチ分析
5.3 ハーモニック・パターン分析
5.4 ポイント&フィギュア分析
5.5 PIVOTポイント分析
5.6 各商品市場他との相関関係の分析他
5.7 スタート地点とゴール地点を設定できる分析手法のまとめ
6 通常型のテクニカル指標の利用について
7 指標トレードの存在
8 相場分析は根拠の積み上げが大切
9 まとめ
1 指標の前後のトレードは避けるのがセオリー
為替市場は、日々発表される経済指標の内容で大きく動くことが頻繁にあります。株や債券を含めた各金融市場の中でも、為替市場は特に指標に反応することで知られており、指標の発表日時の把握はトレードを行う上で必要不可欠です。
ただし指標発表後にどのような値動きを見せるかは、簡単には予想できないため、一般的には指標発表の前後はトレードを避けるのがセオリーとも言われています。
指標発表で無用なリスクを取らないという観点では、指標発表の前後にトレードしないことは非常に理にかなった選択です。実際、ベテラントレーダーでも指標前後はポジションをゼロにするという方も存在するため、指標発表の前後は様子見との判断は正しいトレード戦略と言えます。
一方、指標発表は為替市場の値動きの原動力、という面もあります。指標発表を契機に、それまで停滞していた相場が一気に動き出し、トレンドが生じることもしばしばあります。つまり、指標発表を契機とする値動きを読むことができれば、FXトレードで非常に効率よく収益を上げることにもつながっていきます。
やや中~上級者向けの考え方も含んでいますが、指標をトレードに活かすための考え方とその方法論を見ていきましょう。
2 指標発表は値動きを加速する
指標発表時の激しい値動きは、一見すると無秩序に動いているように見えます。もちろん相場に100%はありえないので、指標発表後に訳の分からない値動きを見せることも当然ありますが、後でチャートを振り返ると、短時間の値動きの中にも本来あるべき値動きが内在し、それが加速しているケースも多々あるのです。
為替市場に大きな影響力を有しているのは機関投資家であり、指標の発表内容を見極めてからポジションを取る機関投資家も多いと考えれば、指標発表の後にトレンドが生じたり、意味ある値動きが生じたりすることも理解できます。
3 FXをするなら覚えておきたい。代表的な3つの指標
大きな値動きが生じる可能性のある代表的な指標発表には、①金利及び中央銀行の発表、②雇用関係の指標、③アメリカの小売売上高の3つがあります。
次からの説明では、代表例としてアメリカの指標を取り上げています。しかしながらアメリカ以外の国の各指標でも、これらの指標は為替市場を動かす可能性があります。特に「金利・中央銀行関係」、「雇用関係」の指標発表はアメリカ以外の国においても十分な注意が必要です。
3.1 FOMC他、金利及び中央銀行の発表
アメリカのFOMCでの金利発表やFRB議長の声明発表等は、指標関係では最重要です。特に金利の上げ下げが予想されている場合は要注意です。FOMCが注目されるケースが多いですが、日本の場合においても2013年に日銀が異次元の金融緩和(黒田バズーカ)を発表し、大きく円安に振れたことを覚えている方もおられるのではないでしょうか。
日本は既に金融政策で打てる手が限られているので、日銀政策決定会合の注目度は低くなりますが、アメリカのFOMC、ユーロ圏のECB政策金利発表及びドラギ総裁の会見、その他イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダいずれも金利関係の指標発表の日時とその内容の事前把握は必要不可欠です。
特に殺人通貨と呼ばれることもあり、値動きの激しいことで知られるイギリス・ポンド(ex.ポンド/円、ポンド/ドル)は、イングランド中央銀行の総裁の発言で一気に相場が走ることがあります。そのため、ポンドのトレードを行う際はイギリスの金利及び中央銀行関係の発表日時をしっかり確認するべきです。これを怠ると、アッと言う間に大きな損失を抱えることになりかねません。
3.2 雇用統計他の雇用関係指標
アメリカの雇用統計が為替市場を大きく動かすことは有名ですが、他国の雇用関係の指標発表も該当する為替市場を大きく動かすケースがあります。
日本の雇用関係の指標に市場が反応することは少ないのですが、アメリカ以外の国の雇用関係の指標発表も、該当する通貨ペアでのトレードを行うのであれば、その発表日時の把握は必要不可欠です。
3.3 小売売上高
こちらは特にアメリカ中心に注目したい指標です。FOMCや雇用統計ほどメジャーな指標発表ではありませんが、小売売上高が予想数値との乖離が大きいと、為替市場が大きく動くことがあります。
乖離がそれほどない場合は、為替市場に対する影響がほとんどない場合も多いのですが、乖離が生じると大きく市場が動くことのあります。そのため、為替トレードする場合、その発表日時の把握は必須と言っても過言ではありません。
4 指標を具体的にトレードで利用する方法
それではこのような指標をトレードにどのように利用していけばよいのでしょうか。まず大前提として、指標発表を契機に為替市場は意味のある値動きを始めることが多い、という点を認識する必要があります。
レンジ相場=意味のない値動き=波間を漂っているだけ、ということがしばしばあります。レンジ相場は機関投資家が買い集めを行っていることが多いので、決して意味のない値動きではない、との反論もあろうかと思いますが、レンジ相場の後に、トレンド相場が到来すること自体は、多くの投資家が同意されるのではないでしょうか?為替市場に限らず、株式市場を始めとする金融市場は、レンジ相場とトレンド相場が繰り返しやってくることで値動きが形成されています。
そして指標発表を契機にスタートした値動きの性格を知るためには、ゴールに向かった値動きなのか、それとも、ゴールに到着した後の戻るための値動きなのか、という視点が必要となります。
さらに上記のミックスで、ゴールに到達したすぐその後に反転する値動きを見せることも頻発します。意味のない値動きかと思いきや、最短距離で意味ある値動きを取るというケースは、トレーダーとしては最も値動きに対応することが難しいケースです。
5 相場のゴール設定が最も難しい部分
指標発表をトレードに活用する際に最も難しいのは、例えば「ドル/円が110円まで到達するだろう」などといった市場におけるゴール設定となります。
為替市場は様々な方法によって分析することが可能です。しかしながら初心者トレーダーの場合、分析結果と為替市場がシンクロできていないことが多くなります。経験値が上がりトレードの腕前が上がれば、自らの分析と実際の市場がシンクロすることが多くなり、市場のゴール設定も可能になり、正解率=トレードの勝率も高くなりますが、自らの分析手法で相場のゴール設定ができないと、そもそも指標を利用のトレードは実現不可能です。自らの相場分析について自信を持ってできる段階にまで至らないと、指標発表の大きな値動きに翻弄されるだけなので、素直に様子見のほうが、勝率は高まります。
ただし、相応の相場分析力を有しているにもかかわらず、指標発表=避けるべき存在、という認識しかないといった方なら、指標をトレードに活用することで新しい視点を得ることにもつながるでしょう。
具体的には次のような方法での相場分析によるゴール設定が考えられます。
- サポート&レジスタンスを中心とするライン分析
- フィボナッチ分析
- ハーモニック・パターン分析
- ポイント&フィギュア分析
- PIVOTポイント分析
- 各商品市場他との相関関係の分析他
それぞれ以下で詳細を解説します。
5.1 サポート&レジスタンスを中心とするライン分析
為替に限らず、ライン分析は王道的な相場分析の方法です。ライン分析とは、チャート上で過去に反転したレートに横や斜めにラインを引くことによって、将来的に相場が反転するレートを予想するものです。
過去の高値や安値はどんな投資家も注目しているポイントであり、注目ポイントでの売り方と買い方の攻防をトレードに活用することが根本の考え方となります。
チャートにひとつずつラインを引くため手間がかかりますが、反転するレート=ゴール設定も非常に行いやすいです。また、ほとんどの投資家が意識しているレートにラインを引くことになるため、どんな投資家も多かれ少なかれ導入している分析方法となり、相場が反応しやすいといえます。
5.2 フィボナッチ分析
フィボナッチ級数という数値を利用して相場分析を行おうとする、海外のトレーダーではメジャーな相場分析方法です。
直近の高値と安値の間でフィボナッチの級数を用いて算出されるレートを基に、相場が反転する場所を探ります。主な利用数値は次のものです。
- 0.236
- 0.382
- 0.618
- 0.786
- 1
- 1.282
- 1.618
- 2.618
この数値を利用するとはいえ、フィボナッチ級数の見方自体にも様々な方法があります。ただし、あまり難しく考えずにレートの高値と安値にフィボナッチのラインを引いて、3割戻し・5割戻しというようなアバウトな利用も可能です。
指標発表の後に相場が走って、フィボナッチの目標値到達後に反転するケースは頻繁にありますし、大枠の相場分析をする際にフィボナッチ分析を行う投資家は機関投資家・個人投資家問わず多く存在しており、算出されたレートで相場が反応することが多いため、知っておいて損のない相場分析手法となります。
5.3 ハーモニック・パターン分析
ハーモニック・パターン分析は、Scott M.Carney氏が手法を提唱した、フィボナッチ分析の上級編ともいうべき手法です。パターン認識=相場の形状認識、というトレード手法のひとつなのですが、海外の個人投資家・機関投資家にディープなファンを持っています。
フィボナッチ分析では、利用するラインを結ぶことでチャート上に三角形が複数現れることがあります。これらの三角形の集まりを何種類かのパターンとして類型化し、そのパターンが現れると相場が反転する、という考えの分析手法です。
代表的なパターンは次の4種類で、それぞれユニークな名称が付けられています。
- バタフライ(蝶)
- バット(コウモリ)
- ガートレー
- クラブ(蟹)
相場が反転しやすいフィボナッチ級数で算出されたレートの中でも、複数の重なるレートを反転ポイントと考えるため、欧米では非常に勝率の高い分析手法として知られています。
指標発表で相場が走り、走った先でハーモニック・パターンを形成し、その後レートが逆行するというのは、ハーモニック・パターンが決まる典型例です。
勝率の高さもありますが、パターンの神秘的な美しさから一部トレーダーの間では非常に人気のある手法です。ただし相場の進む方向と間逆の方向にエントリーすることになるため(逆張り手法)、利用に慣れないと連敗の可能性が高い、中上級者向けの手法となります。
5.4 ポイント&フィギュア分析
古くから欧米のトレーダーに人気があるのが、ポイント&フィギュア分析です。通常のチャートは時間の経過とともにローソク足やバーチャートを描写しますが、チャート上の横軸に時間の経過を記さず値動きのみを○や×で記すという、非常に特殊なチャートを利用することで知られています。
フィボナッチ分析同様、相場のゴール設定が容易にできることも人気の理由です。また、細かい値動きに左右されず冷静に相場を分析することも可能になります。
チャートが特殊なので慣れるのに時間がかかる面がありますが、利益確定や損切りポイントが明確になるため、相場のゴール設定という観点では使い勝手の良い分析手法です。
5.5 PIVOTポイント分析
欧米の商品トレーダーが古くから利用しており、現在では欧米の投資家を中心に多く使われているのがPIVOTポイントです。
PIVOTとは日本語では“回転軸”と訳され、一定の期間(ex.日々)の市場価格が一定のポイントを中心に上下に回転すると仮定して、一定の期間から算出される複数のサポート&レジスタンス値を事前に決めてトレードを行うテクニカル分析手法です。
PIVOTには日足、週足、月足、年足という4種類が存在します。デイトレードの場合、日足のPIVOTの確認は非常に有用ですが、特に指標発表時に効いてくるのは、週足以降のPIVOTです。
指標発表で週足PIVOTに当たった後に反転して、最終的に逆側の週足PIVOTに到達した、という値動きはよく目にします。なお、年に数回しか見る機会がありませんが、年足PIVOTに当たると大きく反転するケースがあるので、PIVOTの確認を行うのであれば、可能な限り年足PIVOTの確認も行いたいところです。
5.6 各商品市場他との相関関係の分析他
アービトラージとも言われる、ヘッジファンドが利用することの多い分析手法です。Aという商品と相関性の高いBという通貨ペアの状況を見比べて、本来似たような値動きを取る両者の値動きが崩れたところでAもしくはBの売買を行う、というのがそのスタイルです。
指標発表を契機に値動きが崩れることもあれば、逆に指標発表を契機に崩れていた値動きが正常化するケースもあります。
個人投資家には非常に敷居の高い分析方法ですが、通貨ペアと相関する商品(ex.原油価格:WTIとUSD/CAD)を監視するというのは、値動きの限界や次の値動きの予想を行う際に有効に機能するケースが多いため、直接トレードに利用できずとも、この考え方の応用範囲は非常に広くなっています。
5.7 スタート地点とゴール地点を設定できる分析手法のまとめ
これ以外にも分析方法もまだありますが、A地点からB地点に向かう契機となるのが指標発表と考えれば、A地点とB地点を何かしらの方法で分析できないと何も始まりません。
ここでご紹介したこの5つの方法はいずれも「A」というスタート地点、「B」というゴール地点の設定が可能な相場分析手法となります。
すでにスタート地点とゴール地点を設定できる分析手法を利用しており、その利用に自信をお持ちであれば、一度指標発表をスタートとゴールという観点で分析されると、新しい世界が見えてくるかもしれません。
ただし、指標発表による激しい値動きでは、ゴール設定に失敗して損切りが遅れるようなことになると予想外の大きな損失が生じる可能性もあります。分析に100%の正解はありません。値動きの早まる指標前後のトレードは、損切り設定はいつもより厳密に入れる必要があります。
なお、FX会社によっては指標発表前後にスプレッドが大きく広がることもあります。利用しているFX会社の指標前後のスプレッドにも十分な注意が必要でしょう。
6 通常型のテクニカル指標の利用について
個人投資家に人気のストキャスティクスやMACDなどの一般的なテクニカル指標は、トレードのタイミングを取るためのツールとしては利用できますが、相場がどこまで伸びるかといった「ゴール設定のツール」としての利用は今ひとつといえます。
テクニカル分析中心にトレードをしていた方が、指標発表を利用したトレードスタイルを取り入れるのであれば、上記に提示したような相場にゴール設定できる分析手法の導入が必要不可欠となります。
もし通常型のテクニカル指標に慣れているようなら、PIVOTポイントの利用は機械的にゴール設定が可能なのでスムーズに入ることができると思います。
7 指標トレードの存在
今回ご紹介したのは、指標発表が為替市場のあるべき値動きを加速する、という考えに基づいたトレード方法です。相場のスタート及びゴール設定ができるようであれば、指標発表に関係なく利用することができます。
一方、指標発表の値動きのみに注目して収益を上げる「指標トレード」というトレード手法も存在しています。大きな値動きを見せる指標発表後の値動きに乗るトレード方法で、発表される指標数値が事前予想に比べて高いか低いかを踏まえて、いち早く相場に飛び乗り、ある程度利益が乗ったところで決済する、という瞬間芸のようなトレード方法です。
指標発表後いち早くポジションを持つ反射神経、指標発表をいち早く知るためのツール、指標発表時もスプレッドが広がらないFX会社等、さまざまな事前準備が必要で、知る人ぞ知るトレード手法といえます。
一般の個人投資家が簡単に手掛けることのできないトレード手法ですが、知識として知っておいても損はありません。
8 相場分析は根拠の積み上げが大切
ここまでで多くの経済指標が為替市場に影響し、その利用方法も多岐にわたることがお分かりいただけたと思います。FXに限らず、いわゆる相場分析は根拠の積み上げとなります。何となくこれから上がりそう、という感覚のみでトレードしていては、遠くない将来にそのトレーダーは破綻します。根拠の積み上げこそが相場分析の根本部分なのです。
相場なので、いくら根拠を積み上げても外れる時は外れる、これは抗いようのない現実です。しかしながら根拠を積み上げることで、トレードの期待値を上げることは可能です。さらに都度のトレードに自信を持って臨むことができます。トレーダーといえども人間、エントリーの際は何かしら頼りたくなるのが人情です。
そして根拠に基づいた分析とエントリーで、体系的なトレードが可能になり、大勝はできずとも、大負けはないトレードが可能になります。
指標発表も根拠の積み上げのひとつに過ぎませんが、レートを動かす要素としては、非常に重要な根拠のひとつとなりえます。とはいえ、単に指標だから、というだけでエントリーするといったことは極めて危険です。これまでご紹介してきたような分析手法を活用した上で、指標前後の値動きを利用する必要があります。
9 まとめ
FXにおいて指標発表の前後のトレードは避けるべき、とのアドバイスは非常に理にかなっています。しかし事前に各種分析ができていれば、指標発表の値動きをトレードに利用することが可能になります。
今回は指標の値動きをトレードに利用するための方法論を取り上げました。指標発表=ポジションを持たない、という考えが大前提だった方には、目から鱗の部分もあるのではないでしょうか?
指標発表という値動きの激しいタイミングでのエントリーとなるため、大前提として何かしらのゴール設定のできる相場分析手法を身につける必要があることから、その利用は中から上級者向けとなります。
ただ、しっかりと地に足の着いた分析手法をベースに眺めると、一見無秩序に見える指標発表前後の値動きも意味のある動きとなっていることが多々あることがわかります。意味の無い値動きの繰り返しではなく、意味ある値動きが非常に速いスピードで進んでいる、そんな視点で指標発表前後の値動きをご覧になってはいかがでしょうか?指標発表に新しい発見がありますよ。
LIMO編集部