5. 不動産を家族信託することのメリット・デメリット
不動産を信託財産とすることで生じるメリット、デメリットをまとめました。
5.1 3つのメリット
費用が割安
信託銀行や信託会社などの商事信託は営利目的ですので、費用がそれなりにかかりますが、家族信託の費用は当事者間で決めるため、それほど高額にならないことが一般的です。
ただし、受託者へ不動産の名義変更をするときにかかる登記費用や、家族信託締結にあたって専門家からのサポートを受ける場合には一定の費用が発生します。
本人の同意なしに不動産売却ができる
不動産の所有者が高齢となり、施設へ入所するためにまとまった資金が必要であるとか、認知症により意思の疎通が難しくなってしまったが不動産を売却する必要がある、というケースは珍しいことではありません。
しかし、本人が契約を履行できる状態でない場合、不動産を処分することができず周りの人が困ることになります。
家族信託契約を締結しておくと、このような場合でも、受益者(本人)のために、受託者の意思で不動産を売却することが可能です。
共同相続人間のトラブルを回避できる
共有名義の収益不動産を売却するときには、名義人全員の同意が必要です。一人でも合意しない人がいると売却を進めることができません。
しかし、家族信託により共同相続人の一人を受託者として、管理・運用・処分ができる権限を与えておけば、収益は平等に分けつつも、意思決定権は一人に持たせることが可能となり、売却手続きがスムーズに進められます。
ただし、受託者が他の相続人の同意を得ずに勝手に売却を進めれば、別のトラブルになる可能性はありますので、他の相続人の同意を取っておくことは重要です。
5.2 3つのデメリット
損益通算できないため節税効果は少ない
収益不動産から得る利益は「不動産所得」に該当するため、確定申告をしなくてはなりません。
通常、1年間の不動産所得に赤字が生じたときは、給与所得や年金収入(雑所得)と損益通算ができますが、信託している不動産の不動産所得が赤字となっても損益通算はできません。
たとえば、大規模な不動産の改修やリフォームなど行うと、ある年、経費が収益を上回り赤字になることがあります。
通常の不動産所得であれば、給与所得や年金収入から赤字分を控除できるため、所得税を減額する効果を得られますが、信託した不動産は損益通算ができないため、税金を減額する効果はありません。
受託者が負担する税金がある
信託報酬がないことの多い家族信託ですが、受託者が負担することになる税金があります。
- 信託の登記の際の「登録免許税」
- 不動産の名義を受託者に変更することで発生する、「固定資産税」
なお、信託不動産の場合は不動産の移転登記をしても、実質的な所有権は委託者にあるため「不動産取得税」はかかりません。
受託者の選任が難しい
家族信託制度で一番難しいのは、実は受託者の選任かもしれません。受託者を誰にするのか、親族間でもめることも考えられます。
家族信託の受託者は、無償の奉仕となることが多いうえに、長い年月、受託者として拘束される可能性があるなど、さまざまな負担が考えられます。なり手が見つからないことも十分にあり得るのです。
ちなみに身内に受託者にふさわしい人がいない、なり手がいない場合には、第三者にお願いすることもできます。
しかし、受託者は相当の権限を持つことになりますので、身内がいる場合に、他人にお願いすることはあまり現実的ではないでしょう。
いずれにしても、家族信託制度の利用には、関係者全員の十分な話し合いと理解が必要です。