介護される人のQOLも大切。そのためにはお金がかかる

また、介護される方のQOLも見過ごすことはできません。

Aさんの祖父は「ヘルパーさんではなく、慣れたシルバーさんに家事援助をお願いしたい」などの希望がありました。

できる限り叶えたい思いはありつつ、「介護保険を優先する」という制度の決まりは守らなくてはなりません。介護のプロでもあるため、そうした説明をしながら丁寧に折り合いをつけていったそうです。

しかし、一度家族で衝突してしまったことがありました。それが、週に1度の楽しみであった「デパートでの買い物」という趣味です。

骨折を機に介護生活となり、外出が困難となったため、これまでの趣味を諦めなくてはならなくなったAさんの祖父。

通っていたデパートでは曜日ごとに催し物があり、それに合わせて買い物にいくことが楽しみでしたが、それができなくなったのです。

できれば代わりにデパートに行って買ってきてほしいと頼まれましたが、AさんもAさんの父も仕事があるため、とても叶えることができません。

シルバーさんの仕事も可能時間が決まっているため、遠くのデパートへの買い出しは不可能です。このような贅沢な悩みに寄り添うことは難しく、最低限の介護で済ませたいとAさんは思ってしまったようです。

しかし、祖父はすでに90歳を超えており、「その楽しみがなくなるなら死んだほうがまし」とまで口にするようになりました。

大切な家族の願いと自分たちの生活を天秤にかける状況に、Aさんは苦しんだといいます。そこで、ある選択肢が生まれました。それが「家事代行」です。

買い物代行も可能ということで、結局Aさん一家はこのサービスを利用することになったのです。

買い物費用だけでなく、往復の電車賃と家事代行サービスの利用料がかさむため、かなりの金額になります。それでもAさんの祖父は、たとえ自分が行けないとしても、満足してくれたそうです。

Aさんの祖父は亡くなってしまいましたが、それなりに満足してくれたのではないか、とAさんは語ります。何より、AさんやAさんの父の後悔は、かなり薄まったはずだと言います。