お父さんのやり方を真似るように、慣れない手つきでタイヤを洗う小さな男の子。その隣では、かがみこんでボンネットに映り込む青い空を確認しながらワックスの拭き上げに熱心な青年。これからどこかへ出かけるのだろうか、2人で手際よくスポンジ片手にボディを泡まみれにさせて楽し気な若い男女。
これは第三京浜港北インターチェンジを降りて、自宅のある大倉山への帰り道にいつも見かける「コイン洗車場」での光景だ。
造成地の中に点在していた思い出の「コイン洗車場」
東急池上線の石川台~洗足池という都内にしては長閑な城南エリアに育ち、若いころから何処へ行くにもクルマで出かけることを常としていた私にとって、買い物や食事といえば駐車場探しに苦労する都心方面よりも、すぐにアプローチできる第三京浜を使って横浜~横須賀~三浦~葉山~逗子~鎌倉といったエリアに足を伸ばすことのほうが多かった。
特に行って帰ってのクルッとひと回りが約1時間の港北ニュータウンエリアは格好のドライブコースで、今から三十ウン年前のアルバイト代をすべてクルマにつぎ込んでいた学生の頃、ありとあらゆる野山がブルドーザーによって造成され、土肌をさらした予定地をまっすぐに突き抜ける立派な複線道路は、自分の好きなペースで愛車を流せる理想的なルートであった。
当時このエリアは横浜市港北区の一部であり、おそらく住所もざっくりとした地名と四桁の地番だけで表示されていたと思われ、まさかその数十年後に横浜市都筑区という新たな行政区を生み出すほどの大きな街になるなんて想像してもいなかった。
そんな何もない造成地だらけのエリアであったが、なぜだか極めて早い時期から点在していたのが「コイン洗車場」。覚えているだけでも港北インターチェンジ付近に4カ所はあったはず。
当時自宅近くの月極駐車場に野ざらしで愛車を保管せざるを得なかった私にとって、思う存分念入りに洗って、納得いくまでワックスがけを堪能できたのは、このコイン洗車場をおいて他にはない、まさに憩いの場であった。
夏の昼間、水道水での洗車はご法度
お日様が降り注ぐ青空の下の洗車は、はたから見ていても楽しそうな風景である。ましてや春から初夏にかけての洗車は、子供たちはもちろんのこと陣頭指揮をとるお父さんにとっても、水遊びの気持ちよさを味わうことができる。
しかしながら、太陽の下での水道水による洗車は実はお勧めできない。早朝や夕暮れ時ならいざ知らず、お日様が昇るとクルマのボディは温められて水をかけているそばから乾き始め、乾いた水分の後には塩素などのいわゆるイオンデポジットが丸くポツポツ跡を残してしまう。
白やシルバーのボディならば目立ちにくいが、黒や赤などの場合はとシミだらけになってしまうのがよくわかる。こうなると洗車することがキレイになるのではなく、むしろ取りにくい汚れを増やしてしまっていることにしかならない。
クルマを走らせることと同じくらい磨くことが好きな私の場合、一番好きな時間帯はお日様が傾き始めた夕暮れ前からの洗車だ。昼間の日差しでボディが熱ければ、まずは大量の水をかけてボディを冷やすことから始める。
夏の日の夕暮れ前であればクルマに水をかけるついでに自宅前のアスファルトにもたっぷりと水を撒いてあげると清涼感はさらに増し、夕涼み洗車も益々楽しくなるというもの・・・。