年金制度改正によって、健康保険・厚生年金保険の適用範囲が段階的に拡大されており、2022年10月にさらに拡大されます。

これまで短時間労働のために厚生年金に加入できなかった人が、条件が緩和されたことで厚生年金に入りやすくなりました。厚生年金に加入することで、将来もらえる年金額を増やすことができます。

そこで、1年働いたらどのくらい増えるのか、計算で導き出してみましょう。

厚生年金の仕組み

厚生年金保険は、厚生年金の適用事業所で働いている70歳未満の人が、国民年金に上乗せして加入する公的年金制度です。保険料は毎月の給料(標準報酬月額)に決められた保険料率をかけた金額を、被保険者本人と事業主が半々で負担します。

納めた保険料は国民年金同様、その時代の年金受給者に支給する世代間扶養方式(賦課方式)となっています。

国民年金の保険料は収入と関係なく一定額を納めますが、厚生年金の保険料は収入に応じた額となるため、収入が多ければ納める保険料も高くなり、その分もらえる年金額も多くなります。

ただし保険料には上限があるため、年金額もそれ以上は増えません。

このように、厚生年金は収入(報酬)に比例して年金額が増える「報酬比例部分」が基礎年金(国民年金)に上乗せされて支給される、いわゆる「2階建て」の年金になっています。

老齢厚生年金の年金額の求め方とは

老齢厚生年金の報酬比例部分の年金額は、次の計算式を使って求めます。

厚生年金に加入していた時期によって分けて計算します。

(1)平成15年3月以前=平均標準報酬月額×7.125/1,000×平成15年3月以前の月数
(2)平成15年4月以後=平均標準報酬額×5.481/1,000×平成15年4月以後の月数
(1)+(2)=厚生年金の年金額(報酬比例部分)

※7.125や5.481という数字は生年月日ごとの乗率であり、ここでは昭和21(1946)年4月2日以降生まれの人の本来水準の乗率を使用しています。

平成15年4月を境に二つに分けて計算するのは、計算の基準となる報酬が「平均標準報酬月額」から「平均標準報酬額」に変わったためです。

「標準報酬月額」とは、保険料や年金の計算において、給与を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて、キリよく表した金額のことです。

「平均標準報酬月額」は平成15年3月以前に厚生年金に加入していた時期の標準報酬月額の平均額です。平たく言えば、その期間の月給の平均額を意味します(賞与は含めません)。

「平均標準報酬額」は平成15年4月以後の厚生年金に加入していた時期の標準報酬月額と標準賞与額(賞与をキリよく表した額、上限あり)を合わせた平均額です。平たく言えば、月給と賞与を合わせて12で割った額です。

それぞれを計算して合計したものが、厚生年金の報酬比例部分の年金額となります。

【月収ごとの早見表】1年働くと年金額はどのくらい増えるか

では、実際にこの式を使って厚生年金に加入して1年働くと年金額がどのくらい増えるのか計算してみましょう。ここでは、平成15年4月以降に厚生年金に加入したケースを想定して、(2)の計算式を使います。

<Aさんの例>

厚生年金に加入して1年間勤務、その期間の平均月収25万円、ボーナスなし

(2)平均標準報酬額×5.481/1,000×厚生年金加入月数
25万円×5.481/1,000×12ヵ月=16443円

平均月収25万円で1年間働くと16443円年金額が増えます。

月収ごとに早見表にしてみました。

1/1

出典:筆者作成

出典:筆者作成

ボーナスがある場合は月収の総額とボーナスを足したもの(年収)を12で割った金額にして見てください。

2022年10月より厚生年金保険の適用範囲が拡大します

これまでパートやアルバイトなどの短時間労働者は一定の要件を満たさないと健康保険や厚生年金保険に加入できませんでした。

<一定の要件>

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 雇用期間が1年以上見込まれること
  • 賃金の月額が8万8000円以上であること
  • 被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時500人を超える事業所であること
  • 学生でないこと

令和4年10月から段階的に要件が緩和され、短時間労働者でも健康保険・厚生年金保険に入りやすくなります。

令和4年10月からの変更

  • 被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時100人を超える事業所に適用
  • 雇用期間が2ヵ月超見込まれること

令和6年10月からの変更

  • 被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時50人を超える事業所に適用

これまで国民健康保険・国民年金に加入していた人にとっては、保障や年金が増えるためメリットを感じるでしょう。

ただ会社員の配偶者(第3号被保険者)であった場合には、これまで支払う必要がなかった社会保険料の支払いが発生するため、メリットよりもデメリットを感じるかもしれません。

専業主婦が厚生年金に入るとどうなるか

例として、これまで会社員の妻として社会保険料の支払いがなかった人が社会保険に加入した場合のメリット・デメリットを見てみましょう。

<Bさんの例>

Bさん(45歳)東京都在住、月収10万円(ボーナスなし)、協会けんぽに加入

社会保険料の負担(2022年6月時点)

  • 健康保険料(介護保険料含む):5611円
  • 厚生年金保険料:8967円
  • 雇用保険料:300円

社会保険料合計:1万4878円

年間:17万8536円

年金の増額

  • 1年間働いた場合:6577円×終身
  • 10年間働いた場合:6万5772円×終身
  • 20年間働いた場合:13万1544円×終身

仮にこのBさんが10年間働いた場合を見てみましょう。10年間の社会保険料の合計は178万5360円です。これに対し、年金は6万5772円増額となるので、65歳から92歳まで年金を受け取ると、増額分は177万5844円となり、支払った保険料とほぼ同じくらいになります。これ以上長生きしてようやく得をする計算です。

ただし、この計算には健康保険料や雇用保険料も入れているので、こちらのメリットも見ないわけにはいきません。

傷病手当金・出産手当金がもらえる

健康保険には、被保険者が病気やケガで仕事を休んだ時に受け取ることができる「傷病手当金」と、被保険者が出産のために仕事を休んだ時に受け取ることができる「出産手当金」があります。国民健康保険の場合は、これらは任意給付となっており、現状ほとんどの市区町村では実施していません。

失業保険がもらえる

1年以上勤めて離職した場合に失業手当を受け取ることができます。年齢や離職理由、加入期間によって受け取れる手当の日数が異なります。解雇や雇止めの場合は、離職日前の1年間に6ヶ月以上の加入期間があれば支給を受けることができます。

障害厚生年金がもらえる

障害基礎年金は障害等級が1級か2級に該当しないと受給できませんが、障害厚生年金は1、2級よりも軽い3級でも受給できます。さらに3級よりも軽い一定の障害に該当する場合は障害手当金が支給されます。

年金だけでなく老後資金も作れる

このように、社会保険料を納めることで、年金の増額だけでなくいくつものメリットを得られます。そもそも長く働けばスキルが上がるなどして、月収10万円から給与も上がっていく場合もあるでしょう。

保険料に囚われず、収入アップを目指していけば、年金が増えるだけでなく貯蓄も増やすことができます。老後の経済的な不安をなくすためには、年金と貯蓄の両方で生活基盤を作っていくことが大事です。

目先の損得だけでなく、長いスパンで得られるものは何かを考えてみるといいのではないでしょうか。

参考資料

石倉 博子