3. JTやオリックスなどが株主優待を廃止する理由①:個人投資家を増やす重要性の低下
まずひとつは、上場企業から見た「個人投資家を増やすことの重要性」の低下が考えられます。
野村インベスター・リレーションズが2021年2月26日に発表した「株主優待実施企業 実態調査『知って得する株主優待 2021年版』 企業アンケート報告書」によると、株主優待を実施している企業271社に複数回答可で「優待を実施する目的」のアンケートを取ったところ、多いもの順に以下のような結果となりました。
- 株主の長期保有促進:64.1%
- 個人株主の増加:57.5%
- 株主への利益還元:51.6%
- 株主の自社への理解促進:51.3%
- 自社製品やサービスのPR:44.7%
- 株価の上昇:20.9%
- 出来高の増加:14.3%
- その他:2.2%
これを見ると、「個人株主の増加」は約6割となっており、最も多かった「株主の長期保有促進」と大差ない結果となりました。
ちなみに、2020年の結果では「個人株主の増加」は「株主の長期保有促進」を上回り、最も多い結果でした。
個人株主を増やしたい理由は企業によって様々ですが、「上場基準を満たすため」という理由も考えられます。
実際に過去、株主数が減少し、上場廃止に関する猶予期間に入りそうまたは入った企業が株主優待を新設するというケースはそれなりに見られました。
しかし今回、上場基準の株主数について、最低ラインは2200人から800人と大幅に減少しました。
この結果、「優待を実施して個人投資家を増やそう」というインセンティブが、低下したのではないでしょうか。
執筆者
1991年生まれ。新潟県新潟市出身。2022年に株式会社モニクル傘下の株式会社ナビゲータープラットフォームに入社し、現在はメディア事業部・メディアグロース企画推進室マネージャー。くらしとお金の経済メディア「LIMO(リーモ)」を中心に、多くの読者の方に幅広いコンテンツを届けるための戦略立案に従事している。
それ以前は、LIMO編集部にてアシスタント・コンテンツマネージャー(ACM)として従事。第一報として報道されるニュースを深堀りし、読者の方が企業財務や金融に対する知的好奇心を満たしたり、客観的データや事実に基づく判断を身に付けられたりできる内容の記事を積極的に発信していた。
入社以前は、株式会社フィスコにて客員アナリストとして約20社を担当し、アナリストレポートを多数執筆。また、営業担当として、IRツール(アナリストレポート、統合報告書、ESGレポートなど)やバーチャル株主総会サービス、株主優待電子化サービスなどもセールス。加えて、財務アドバイザーとしてM&Aや資金調達を提案したほか、上場企業向けにIR全般にわたるコンサルティングも提供。財務アドバイザリーファームからの業務委託で、数千万~数十億円規模の資金調達支援も多数経験。
株式会社第四銀行(現:株式会社第四北越銀行)、オリックス株式会社でも勤務し、中小・中堅企業向け融資を中心に幅広い金融サービスを営業した。株式会社DZHフィナンシャルリサーチでは、日本株アナリストとして上場企業の決算やM&A、資金調達などのニュースと、それを受けた株価の値動きに関する情報・分析を配信。IPOする企業の事業・財務を分析し、初値の予想などに関するレポートを執筆。ロンドン証券取引所傘下のリフィニティブ向けに、週間・月間レポートで、日本株パートを執筆。経済情報番組「日経CNBC」にて毎月電話出演し、相場や株価の状況も解説していた。
新潟県立新津高等学校を経て、2013年に慶応義塾大学商学部を卒業。学部では、岡本大輔研究会にて企業評価論、計量経営学を専攻していた。
最終更新日:2023/11/03