再分配するのにも高い障壁が

日本の実質賃金の国際比較をしてみると、1997年=100とした場合の「実質賃金指数」で見た場合、次のようになります(2016年/OECDのデータを基に全労連作成)。

フランス……126.4
ドイツ……116.3
アメリカ……115.3

そして、日本はというと89.7です。1997年から2016年までの19年間で、先進国の多くが1割以上上昇しているにもかかわらず、日本は1割以上も下落しています。要は“みんなが貧乏になっている"ということです。

このような状況下で重要になるのが再分配政策です。所得アップ・成長実現のために労働市場の組み替えをするとしても、再分配政策が必要になります。

ただ、日本ではこの再分配政策にも高い障壁が待ち受けています。公正な再分配実現のためには精度の高い所得捕捉が前提となります。もっといえば、所得だけでなく資産も含めての捕捉が必要です。

これが致命的なほど日本は遅れています。要はマイナンバーの問題とも関連するのですが、コロナ禍の問題で露呈した通り、日本国民のデータベース化がまったく進んでいない。

結局、質の高い公共サービスや福祉を実現するためには、国民の精度の高いデータベースが必要なのは自明なわけですが、日本の場合は“個人情報"や“人権"の問題で暗礁に乗り上げています。こんな国も少ないでしょう。世界ではとっくに、合意形成が進んでいる気がするのですが。

問題がテンコ盛りの日本。とはいえ、総選挙までは少し時間があるので、いろいろと考えてみたいと思っています。

参考資料

令和2年賃金構造基本統計調査 結果の概要(2021年5月14日訂正、厚生労働省)
WEB特集「念願の正社員、でも『安かった』」(2021年8月24日、NHK)
実質賃金指数の推移の国際比較(全国労働組合総連合)

 

榎本 洋