悪事がバレにくい一因は、日本企業が従業員の共同体だからでしょう。会社のために品質不正を行なっている人がいるとして、共同体の一員がそれを密告するのは勇気が要りますし、そもそも密告しようと思わない人がほとんどでしょう。
最近は非正規労働者が増えていて、彼らの多くは共同体意識が薄いでしょうから、密告の可能性は以前よりは高まっていると思いますが、正社員としては非正規労働者には機密情報は知られないように気をつけるでしょうから、変化は限定的でしょう。
刑罰が軽いことも抑止力を弱めている
バレにくい上に、バレても制裁が厳しくない、ということも悪事を抑止する力が働きにくい理由でしょう。
日本の刑罰は罪に比べて軽いのが普通です。殺人でも死刑や無期懲役になる事例は多くありませんから。これは、犯罪者が「前科者」として冷たい扱いを受ける等々の社会的な制裁を受けることを考えてのことなのでしょう。
しかし、品質不正を行なった当人は、社会的な制裁をあまり受けないかもしれません。「会社のためにやったことだから」というわけですね。バレにくい上に、仮にバレても刑罰も社会的制裁も軽いのであれば、思いとどまるインセンティブは弱いはずですね。
そればかりではありません。もしかすると、本人は会社を助けたヒーローの気分かもしれません。「品質不正が何十年もバレなかったということは、基準が高すぎるのであって、多少の品質不正をしても誰にも迷惑をかけていないのだ」などと考えているのかもしれません。
粉飾決算についても、「一時的な赤字を隠している間に収益が回復すれば何の問題も起きないはずだ。正直に赤字決算を発表して銀行団に融資を引き揚げられて倒産して、従業員を路頭に迷わせるより遥かに良い結果をもたらすだろう」などと考えているのかもしれません。