ビジネスの現場は、本来なら自由に意見を言っていい場のはずなのに、「会社での上下関係」に引きずられて空気を読んでしまい、「言いたいことも言えない」という経験。みなさんにもないでしょうか。
「君たちも自由に発言していいんだ」と言われても、「そう言われてホントに自由に発言したら怒られるかも」「上司と反対の意見なので言いにくい……」など、なかなか素直に自分の意見を言えない。そんな状況であれば、何かヘタなことを言って評価を落とすよりも、黙っていたほうが得策です。しかしこれでは、「実は本当に自分の意見を言っていい場」であっても、過度に忖度(そんたく)してしまって自分を出せません。
私自身はこれまでプロ野球選手として、またメジャーリーグのスカウトとして、プロ・アマのさまざまな現場を見てきて、近年は少年世代のチーム改革や選手のコーチング、企業におけるチームビルディングのお手伝いなども行っています。この記事では、拙著『C3チームビルディング』をもとに、会社やスポーツ組織における「上司と部下(リーダーとメンバー)の関係性」のあるべき姿はどんなものかをお伝えします。
「相手のできないこと」ばかり目につくリーダー
会社や組織で、単にメンバーの寄せ集めに過ぎない「グループ」から、目的を共有し、協力し合い、競争し合い、意見を遠慮なく言い合うことのできる「チーム」へと変わることができれば、当然、チームとしての生産性は上がります。
では、本当の「チーム」をつくるためには、どうすればいいのでしょう? 何と言ってもはじめに重要なのは「リーダーのスタンス」です。まずは、自分主体でチームを理解するのではなく、それぞれのメンバーのバックグラウンドを理解していくことです。それができずに、自分の立場からでしか相手を見ることができないと、「相手のできないこと」ばかりが目につき、常に叱っていなければならなくなります。
相手の立場に立ってみて、「相手がどう感じているか」「どう考えているか」を、その人の性格も含めて理解しようとすることです。なぜなら、相手の気になる言動は、これらのことが土台となって表に出ているものだからです。
たとえば、会議中にスマホばかりいじって話を聞いていない社員がいたとしても、
「お前、何やってんだ!」
といきなり怒るのではなく、
「彼は会議に飽きてきたんだな」
「何か大事な連絡が入る予定なのかもしれない」
などと想像を働かせて、考えられることは大事です。相手に「何か事情があるのかもしれない」と想像する。そうすれば、「あと10分で終わるから、もう10分だけ集中してくれ」とか、「何か大事な連絡が入る予定なら、いったん抜けていいよ」と言えます。
こうした分析をした上での行動ができない人が、今の指導者には多いのが現状です。「自分たちが部下の時代はアゴで使われてきたのに、いざ自分が上の立場になったら、下に気を遣わなければいけないというのは癪にさわる」という人が多いのだと考えられます。
実際の会社でもスポーツでも繰り返される「ダメな指導」とは
スポーツでも、監督やコーチは、自分よりも知識が高い選手に対して、上から目線で「お前はもっとこうしなさい」と言うことがあります。なかには、選手が知識をつけると自分の立場が危うくなるからという「保身」の目的で、外からの情報をあえて入れないように指導している人もいます。
こうした指導者は、実際の指導手法の良し悪しを分析できていないことも多いので、「こうしなさい」と上からのやり方を押し付けるような言い方しかできないのです。
ビジネスの場面で考えてみると、たとえば「自分の部の成績のため」だけに若手を使っているような部長や課長がこれに当てはまります。こんな部署では、自分の部署の今の成績ばかりを気にするあまり、メンバーの成長によって、「長期的な利益」を得ていこうとする姿勢が欠けていることが多々あります。
こんな環境にいるメンバーは、一瞬はよくても、やがて疲弊してしまいます。そして、下の立場にいる人がついてこないだけでなく、やがて人が離れていきます。
結局のところ、部下と一緒に成長しようという姿勢を持っている人にこそ、若手はついていこうと思うものです。スポーツでもビジネスでも、お互いにそれぞれの立場で一緒に成長しようとするチームなら、強くならないはずがありません。
メンバーを「搾取する」リーダー・指導者の特徴
スポーツでいう監督・コーチやメンバー、会社でいう上司や部下は、同じ組織に所属する「運命共同体」です。ここに参加する人たち全員が勝利や利益増に対して参加し、最終的に幸せになることが、組織としての究極の目標といえます。
ところが、組織のリーダーは、先ほど触れたように、「自分の利益のために、下の立場にいる人を利用している」というケースが多く見られます。残念ながら日本のスポーツ界でいえば、自分が勝ちたいばかりに目先の勝利を目指して、選手を意のままに動かし、短期的に奮起させている指導者が多いのが現実です。
結果として、選手の長期にわたる成長や、将来的な目標などが考慮されない指導になってしまっています。企業でも、先ほどのようにメンバーの疲弊を招き、離脱を促してしまいます。それらは結局のところ、リーダーがメンバーから「搾取」しているのと変わりません。
リーダーはメンバーのモチベーションを上げ、成長を促してサポートしつつ、同じ目標に向かってともに成長を感じながら、日々のやるべきことに当たるべきです。チームにおけるリーダーの役割はやはり大きいものがありますから、リーダーが正しいチームビルディングを行えば、チームをよい方向に導くことができます。
「観察」して「分析」する
ビジネスの現場でも「徹夜しました、残業しました、でも売上は上がりません」ということはよくあります。こうした場合、本来であれば売上が増えない要因を分析し、欠けている要素を埋めていくような行動をする必要があります。これはごく当たり前のことです。「がんばったな、いつかは結果が出るよ」と言いながら闇雲にがんばらせても、成果は上げられません。
人や、人に関わるいろんな出来事を観察し、原因を「分析」する。劣っている要素や欠けている要素を絞り出し、そこを埋めるための方策を導き出します。そのやり方がレベル的にできないのであれば、トレーニングを行って技術を習得するまでです。そのためにリーダーがいるのです。
たとえば、遅刻した人がいたら、頭ごなしに「なんで、遅れたんだ!」と問答無用で叱るのではなく、「何か事情があるんじゃないか?」「理由があるんじゃないか?」と相手に問うことを心がけてみましょう。
「観察」のときに重要なのは、相手を見ながら想像力を膨らませて、あらゆる選択肢を想定することです。先の例でいえば、「相手が遅刻した理由」を可能な限り考えてみてください。
「夜更かしをしていた」
「目覚まし時計が鳴らなかった」
「電車が遅延した」
これらは誰でも思いつく範囲ですが、他にももっと考えられるはずです。
「集合時間を間違えた」
「着ていく服に迷っていた」
「親の病気の看護をしていた」
といった理由があったかもしれません。
なぜ夜更かしをしたのかについても、その中身はいろいろと「分析」できそうです。優秀な指導者といえる人たちは、このように多角的に人を見られる人が多いのです。他者を理解するために「多角的な視点で人を見る」というのが習慣になっている人が多いのではないかと考えられます。
もしくは日頃の様子からして「詮索してほしくない」という雰囲気を発していることもあるかもしれません。そういうときは、そっとしておいてあげることです。そうして自分を観察・分析してくれるような上司は、下の立場の人からすると、とても頼もしく見えるはずです。
アドバイスの「最悪」なタイミングと「適切」なタイミング
なんでも一括りに考えず、相手の事情を理解しようとすることに重きを置き、対応を変えていくのは大切です。しかし、当然のことながら、社会人たるもの「遅刻をしていい」わけではありません。こんな場合、適切なタイミングに指摘してあげることもリーダーの務めです。ただ、その「タイミング」が非常に重要です。
落ち込んでいるときに指摘しても、耳に入らないばかりか、ヘタをすると反発を招きます。相手の状態がよいとき、「落ち込んでいる状態から回復気配のとき」に言うことが大切です。
逆に最もまずいのは「失敗の直後に指摘すること」です。相手が落ち込んでいるときは失敗を指摘する必要はありません。落ち込んでいるということは、自分の失敗を自覚しているからです。相手が失敗を自覚している場合は、相手の聞き入れ体勢ができているときに、これから改善すべき点について一緒に考えていくようにしまします。
日本では、まだ「言わなくてもわかる」とか、「こういうことなんだろう」と決めつけてしまっていることが多いように思います。決めつけの結果、わかり合えない場面が多いのなら、やはりそこを改善していく必要があるのではないでしょうか。
■小島 圭市(こじま・けいいち)
C3.Japan合同会社 代表。1968年神奈川県川崎市生まれ。東海大学付属高輪台高等学校卒業後、読売巨人軍に入団。1996年MLBテキサスレンジャーズとマイナー契約。1997年傘下チームのフロリダとオクラホマでプレー。その後、中日ドラゴンズ、台湾プロ野球の興農ブルズでプレー。2000年に現役引退を決意。ロサンジェルス・ドジャースからスカウトの打診を受け、同年からMLBロサンジェルス・ドジャースのアジア担当スカウトを13年間務め、アマチュア選手の獲得にも積極的に活動。プロでは、斎藤隆投手や黒田博樹投手の獲得に関わる。その後、ビジネス業界に転身し、現在はC3.Japan合同会社の代表を務める。
小島氏の著書:
『C3チームビルディング』
小島 圭市