年金に関する話題は、いつの時代も事欠きません。
年金に関するニュースが出たとしても、年金制度そのものが複雑なため、その内容が分からなかったり、制度や内容の理解が進まなかったりします。
私自身、大学卒業から今日まで、ファイナンシャル・アドバイザーとして多くのお客様のファイナンシャル・プランニングを担当してきました。
これまでの経験の中でも、特に「年金の繰上げ・繰下げ受給」に関する質問は多くありました。
自分の寿命は予測できるはずもないので、繰上げ・繰り下げが得なのか損なのか、判断するのが難しいからかもしれません。
そこで今回は、みんなが疑問に思っている「年金の繰上げ受給」について見ていきます。
年金の「繰上げ受給」とは
「繰上げ受給」とは、原則として65歳で受け取る年金を、希望すれば65歳より前から受け取れる制度です。
昨今はコロナウィルスの影響で収入が激減した方もそうですが、病気で思うように働けない方、60歳で定年退職をして無職の方など、申請すれば早めに年金を受給することができます。
65歳まで待たなくても、年金を受け取れるのはありがたいですよね。
ただし、実際に繰上げ受給を申請する際は気をつけるべき点がいくつかあります。次ページより見ていきましょう。
繰上げ受給の注意点
65歳より前に年金を繰上げて受給する場合、下記の注意が必要です。
繰上げ受給の注意点その1
繰上げ受給を申請した場合は下記の計算式に則り、生涯減額されます。
- 減額率=0.5%×繰上げ請求月から65歳に達する日の前月までの月数
また、一度減額された金額は戻りません。(※ただし振替加算の加算対象者は除く)
この減額は一生続きますので、繰上げ請求をしない場合よりも、受給総額が減少する場合があります。
繰上げ受給の注意点その2
繰上げ請求したあとに裁定の取り消しはできません。一度受給権が発生してしまうと、請求を取り消したり、変更することはできません。
繰上げ受給の注意点その3
寡婦年金を受給している人が老齢基礎年金の繰上げ受給を請求すると権利を失ってしまいます。
逆に老齢基礎年金を繰上げ受給している人は寡婦年金の請求ができません。
繰上げ受給の注意点その4
受給権が発生した後に初診日がある場合、障害基礎年金が受給できません。繰上げ年金を請求する前に病気やケガで障害がある場合も障害基礎年金を請求できない場合があります。
繰上げ受給の注意点その5
受給権者は、国民年金の任意加入被保険者になれません。
※任意加入制度について
60歳までに老齢基礎年金の受給資格を満たしていない場合や、40年の納付済期間がないため老齢基礎年金を満額受給できない場合などで年金額の増額を希望するときは、60歳以降でも国民年金に任意加入をすることができます。(厚生年金保険、共済組合等加入者を除く)ただし、申出のあった月からの加入となり、遡って加入することはできません。(日本年金機構HP「任意加入制度」より抜粋)
その他にも、細かな注意点がありますので、いずれにしても繰上げ請求を行う際は、将来の生活設計も視野に入れて、検討することが必要となります。
「年金だけだと生活が大変」という声も多い昨今。
老後の生活の柱となる年金が、繰上げ受給によって早めに受給できるとはいえ、もらえる額が減ってしまうのは老後生活を送る上において心配なところです。
繰上げ受給は実際におトクなのか
繰上げ受給をしたら長生きした時が心配でもありますし、逆にそんなに長生きしないから早く受け取りたい、という人もいるかもしれません。
繰上げ受給をした時の損益分岐点はいったいどこなのでしょうか。
何年後にその分岐点が訪れるのか、実際に計算してみましょう。
厚生労働省の公表した令和3年度の老齢基礎年金額は満額で年間78万900円(月額6万5075円)です。
最大減額率となる60歳で繰上げ受給を申請した場合、減額率は30%となります。
※減額率=0.5%×繰上げ請求月から65歳に達する日の前月までの月数(0.5%×5年×12ヶ月=30%)
よって年間受給額は78万900円(老齢基礎年金満額受給額)×0.7(1-減額率)で54万6630円となります。
上記の計算をもとに損益分岐点を算出します。※年ベースで筆者が計算
75歳までの年金額の合計(※1)
※1:繰上げ受給で60歳から16年間、本来の受給で65歳から12年間受け取った場合のそれぞれの合計
60歳から受給(繰上げ):54万6630円×16年=874万6080円
65歳から受給(本来):78万900円×11年=858万9900円
76歳までの年金額の合計(※2)
※2:繰上げ受給で60歳から17年間、本来の受給で65歳から12年間受け取った場合のそれぞれの合計
60歳から受給(繰上げ):54万6630円×17年=929万2710円
65歳から受給(本来):78万900円×12年=937万800円
年単位での比較にはなりますが、繰上げ受給をした場合、16年間分を受け取った時点、つまり75歳まで受け取った分だと、本来の累計額を上回りそうですが、翌年分を受け取った段階で下回ることになりそうです。
ちなみに2020年5月に年金改革法が成立したことにより、令和4年4月1日以降60歳に到達する人を対象として、減額率が従来の月0.5%から0.4%に引き下げられる予定となっています。
今までは最大30%の減額率でしたが、24%に改善されるため、繰上げ受給のメリットは増すことになりますね。
まとめにかえて
人生100年時代と言われて久しい昨今。
人生が長くなればなるほど、繰上げ受給するかどうかは悩ましいところです。
しかし、年金以外で老後の生活費をカバーできるお金対策を行っておけば、繰上げ受給の選択も悪くないかもしれません。よくよく考えて選択することが大切です。
コロナ禍の影響でリストラや倒産する会社もあり、年金の繰上げ受給をしたくなくてもせざるを得ない人もいるかもしれません。
現在のコロナ禍のような予期せぬ事態が起こったとき、お金の問題に関しては、すぐに対応することは困難です。したがって早めの対策が必要となります。
年金だけ、また退職金だけを頼ることは極力避けて、資産運用も視野に入れながら老後資金の準備を始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
日本年金機構「老齢基礎年金の繰上げ受給」
日本年金機構「老齢厚生年金の繰上げ受給」
日本年金機構「年金の繰上げ受給」
日本年金機構「繰上げ請求の注意点」
日本年金機構「任意加入制度」
日本年金機構「令和3年4月分からの年金額等について」
厚生労働省「年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」
