2016年10月も売上高が対前年同月比で減少
百貨店の売上高減少が止まりません。2016年11月1日に百貨店各社から発表された2016年10月の売上高(速報ベース)は、軒並み対前年同月比でマイナスになりました。
三越伊勢丹ホールディングス(3099)では国内百貨店事業計で前年同月比▲2.5%減、J.フロント リテイリング(3086)の百貨店事業は同▲5%減、髙島屋(8233)の単体および国内百貨店子会社は同▲3.7%減、エイチ・ツー・オー リテイリング(8242)は同▲3.2%減でした。
2016年春から続く基調の弱さ、3つの要因
各社ごとにややばらつきがありますが、今年の春先からマイナス傾向が続いていると言ってよいでしょう。なかなか改善の兆しが見られない売上高ですが、その要因は主に3つあります。
第1は、中間層の消費マインドの弱さです。百貨店というと外商がアテンドするような優良資産家をイメージしますが、利益を支えるのは中間層と言われています。この中間層の消費マインドが、今年に入りずっと冷え込んでいます。生活防衛意識が強くなり、加えて株式市場の下落が重なっています。
第2は、天候の影響です。夏の後半から天候不順が続き、さらに秋に入って気温の低下がやや遅れたという印象です。このため、百貨店にとって大変重要な秋物衣料品の出鼻をくじかれてしまいました。
第3は、インバウンドの爆買いの一服です。特に中国の関税引上げによって、転売目的の大口買いが鳴りを潜めたことが影響しています。10月の売上高を旗艦店舗別に見ると、三越銀座店と髙島屋日本橋店の厳しさが際立っていますが、インバウンド消費の変質が影響を及ぼしたと見てよいでしょう。最近のインバウンド消費は、ご当地商品やコト消費に向かっていると言われます。
モノ消費マインドは悪いが、実はコト消費マインドは強いのでは?
こう見ると「百貨店の不振=消費マインドの悪化」と捉えたくなります。しかし、よく考えるとそうではないのではないでしょうか。
たとえば、オリエンタルランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンの入場者は決して冷え込んでいません。また、映画「君の名は」や「シン・ゴジラ」などの大ヒットは、消費者の財布の紐が固くては実現しなかったでしょう。
モノが既に飽和している現在、消費者はモノとコトを巧みにスイッチしながら消費を楽しんでいる、それが実像ではないでしょうか。さらに言えば、コト消費を最大限楽しむために、モノ消費を楽しみながら節約しているとも言えるでしょう。そうした時代の変化の中で、百貨店がうまく対応できていないことが足元の売上高不振の底流にあると筆者は考えます。
百貨店の本懐はモノ消費の楽しさの提供
百貨店の動きも慌ただしくなってきました。セブン&アイ・ホールディングスはエイチ・ツー・オー リテイリングと資本業務提携をして関西の百貨店店舗の切り離し準備を始めましたし、郊外店舗の閉鎖も始めました。三越伊勢丹ホールディングスも郊外店の整理を始めています。地域一番店になれなければ思い切って整理するという動きが、今後ますます広がりそうです。
確かに低採算の店舗を手放すのは理にかなっていますし、投資は基幹店舗に重点的に行うべきでしょう。しかし、投資というと、どうしても物理的な器に向かいがちです。
ここからは筆者の個人的な感想になりますが、百貨店の課題は販売員の生産性、もっと言えば熱意だと思います。百貨店の中を見て回るよりも、エービーシー・マートで靴を見ている時のほうがよっぽど販売員から声をかけられ、ニーズを聞かれます。
「百貨店に出かけたら、自分の潜在ニーズが具現化できてよい買い物をした」ーーそんな体験が繰り返されるように人的資源を強化する必要があると筆者は考えますが、少し思い上がった考えでしょうか。
LIMO編集部