三菱重工と三菱電機、明暗が分かれた決算発表

2016年10月31日午後、三菱電機(6503)と三菱重工(7011)が2017年3月期Q2累計(4-9月期)の決算を発表しました。発表時間は三菱電機が13時15分、三菱重工が13時30分と、いずれも取引時間中でしたが、終値は三菱電機が+1.7%上昇、三菱重工が▲3.5%下落と明暗を分けました。

その理由はシンプルで、三菱電機が2017年3月期通期の業績予想を上方修正した一方で、三菱重工は下方修正を発表したためです。ただし、年初来の株価推移を見ても両社には大きな開きがあります。この差の背景について考えてみました。

そもそも両社の違いとは?

まず、三菱電機のエアコンは「霧ヶ峰」、三菱重工は「ビーバー」の違いぐらいしか知らない、という方のために簡単に両社の概要を説明します。

三菱電機は、FA機器(NC装置、シーケンサ、サーボモータなど)、自動車電装機器(オルタネータ、スタータ、カーナビなど)、エアコン、発電機、エレベーターなどを手掛ける産業エレクトロニクス企業です。

一方、三菱重工は、造船、発電システム、航空機関連、製鉄機械、コンプレッサ、ターボチャージャ(過給機)、フォークリフト、空調機などを手掛ける総合重機メーカーです※。

※詳しく知りたい方は、個人投資家向け金融経済メディアLongine(ロンジン)のレポート『【三菱重工業(7011)の利益成長可能性の高さに着目し「大型株1年」での注目開始(2016年04月22日推奨終了)】』をご参照下さい(無料記事)。

両社とも直近の年間売上規模は4兆円強ですが、連結従業員数は三菱電機の約13.5万人に対して三菱重工は8.4万人となっています。一方、時価総額は三菱電機が約3兆円と、三菱重工の約1.5兆円の約2倍に達します。

なお、三菱電機は1921年に三菱重工の電機部門が分社化し発足していますが、経営は独立して行われており、事業領域はエアコンなどの一部を除き棲み分けられています。

たとえば、原子力発電システムの場合では三菱重工は原子炉本体を製造し、三菱電機は制御を行う計装部門を担当する、あるいは、三菱重工はロケットのエンジンを製造し、三菱電機はロケットに取り付けられる人工衛星を製造する、といった具合です。

三菱電機に見劣りする三菱重工、挽回は可能か?

前述のように、今回の決算発表直後、両社の株価は明暗が分かれました。と同時に、今年に入ってからの株価変化率も、三菱電機が+11%上昇に対して三菱重工が▲16%下落と大きな開きが見られます。

どちらも、円高および中国や産油国の景気減速などの影響を受けていますが、これだけのパフォーマンス格差が生まれたのは、三菱重工の独自要因が大きいと考えられます。

具体的には、今回の三菱重工の下方修正要因となった商船事業の採算悪化、MRJ事業の開発費増加です。加えて、米国での原子力発電の訴訟問題、日立製作所との南アフリカの火力発電事業案件の損失負担を巡る係争などの潜在的な業績悪化リスクも嫌気された可能性があると推察されます。

一方、三菱電機の現在の事業ポートフォリオには構造的な問題を抱えた事業がほとんどないことは見逃せません。これが、三菱電機が景気減速下でも業績悪化を最小限に留めている一因となっていると考えられます。

同社は1990年代後半より長期間にわたり「強い事業をより強く」というポリシーで選択と集中を進めてきており、こうした取り組みが現在の安定した業績を支えているのです。

ここで興味深いことは、三菱重工も2012年3月期からSBU(戦略的ビジネスユニット)単位での事業評価制度の運用を導入し、ポートフォリオマネジメント(事業の取捨選択)を強化していることです。

足元では様々な不運が重なり株価も業績も冴えない三菱重工ですが、いずれこうした取り組みが花を開く時が来る可能性も否定できません。時間はかかるかもしれませんが、今後の動向を注視したいと思います。

三菱電機と三菱重工の過去2年間の株価推移(青:三菱電機、赤:三菱重工)

 

和泉 美治