新型コロナウイルス感染症による業績不振などで、「できれば定年まで今の会社で」と思っていた未来に不安を抱えてしまっている中年ビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。転職しようにもアピールできるスキルや実績がなく、とはいえ今後も出世する見込みは薄く、「どうしたものか……」と考えこんでいる人も少なくないはずです。

 そうした状態の打開策の一つになるかもしれないのが、「資格で稼いでいく」ことです。いまの時代、「資格で稼ぐのは厳しい」という認識の方も多いでしょう。しかし、私のように50歳前後からでも挑戦できて、このご時世でも需要が伸びている資格もあるのです。

 この記事では、拙著『おじさんは、地味な資格で稼いでく。』をもとに、「自分の力で稼いでいける資格」とはどんなものかを解説します。

資格を取るなら「地味な資格」がねらい目

 私の考える「50歳からでも稼げる資格」とは「法人に必要とされる」資格です。私自身も社会保険労務士(社労士)という資格を持っていますが、法人がクライアントになることが多いため、「稼いでいる割には、一般の方にとっては業務内容などの認知度が低い資格」なのです。こういった資格を私は「地味な資格」と呼んでいます。

 稼げるようになる資格ですから、もちろん誰でも簡単に取得できるわけではありませんが、弁護士や税理士といった「個人を対象にした超難関資格」と比べると難易度は下がります。私のように、サラリーマンとして働きながら勉強を進めて合格するのも十分可能です。

「法人相手」ならどんな資格でもいいわけではありません。おすすめしたいのは、「業務に必要とされる資格」と「独立開業できる資格」です。前者はその名のとおりで、宅地建物取引士や施工管理技士といった、一定数雇用することが法律で義務づけられている資格であり、これを取ると転職において有利になります。

「独立開業できる地味な資格」とは、要するに「士業」です。ここではとくに3つの資格を紹介します。

地味に稼げる「社労士」の仕事

 まずは、私も取得している「社労士」について。おもに企業に代わって雇用保険・健康保険・厚生年金保険といった各種社会保険に関する書類の作成や手続きを行います。また就業規則の作成や助成金の代行申請なども担当します。

 最大の魅力は、「顧問契約が結べること」です。企業と顧問契約を結べれば、毎月決まった金額が振り込まれるため、安定収入を望めます。また中小企業経営者は横のつながりが強く、しっかり仕事をしていれば、予想以上に「紹介」をもらえるのも特徴です。

 実務の上で、「総務や人事部、経理などの実務経験がないと意味がない」という意見もあります。しかし、手続きの手順や内容は法律的に変わることもあり、その会社内でしか通用しないルールもあるため、必ずしも必要というわけではありません。むしろ介護業界や派遣業、建設、運輸、外食、SES(客先常駐IT技術者)といった、人手不足の業界出身の方が多く活躍しています。これらの業界には、長時間労働や労災、人材不足など解決すべき問題が山積みです。その業界出身の人は、現場のことをきちんとわかっている場合も多いため、そうした知識は重宝され、多数の顧問先を獲得できる可能性があります。

 助成金申請の増加などの追い風が吹いている社労士ですが、懸念材料もあります。それは「廃業する中小企業の増加」です。社労士にとっては大問題ですが、スタートアップやベンチャー企業をクライアントにすることで切り抜けるという方向性もあります。

 以前は、労働基準法などは無視して昼夜問わず働き続けるのが当たり前でしたが、最近は意識が変わり、ある程度の段階で労働環境を整備する経営者が増えています。上場の際は労働法を順守しているか確認されるということもあり、そうした点でも社労士の需要があります。

地味に稼げる「行政書士」の仕事

 行政書士の仕事は、行政関連の手続き業務(許認可や入管関係等)、事業支援(資金調査・契約書等)、市民法務(相続)と多岐にわたり、なかでもとくに需要があるのが「許認可の代行業務」です。

 建設・飲食店・風俗店など、さまざまな業種が営業を始める際、行政に書類を提出して許可を取る必要があります。書き方の「お作法」がある上、実地調査も入るため、一般の人が自力で行うと時間と労力がかかります。そこで、手続きを円滑にするために専門家に依頼する人が多いのです。その実態について、行政書士法人の代表として活躍する、私の大学の同窓生でもあるAさんに話を伺いました。

 Aさんは複数企業から顧問契約をもらうことで、弁護士の平均年収を上回る年収を得ています。許認可業務だけでなく、契約書の作成、必要となる責任者の配置、更新の準備などといった複数の業務を「許認可管理」というパッケージで請け負うことで、高単価での顧問契約を実現していました。

 Aさんいわく、「大企業のサラリーマン経営者は、失敗したくない、責任を負いたくないという考えが根強くあります。何かあった場合は私が責任をかぶりますと伝えると、少々金額が高くても依頼してくれるのです」とのこと。「ルールはわかっていても責任は軽減したい」という、経営者の気持ちが見て取れます。

 許認可以外にも、「外国人の雇用」という分野で顧問契約を増やしている行政書士もいるとのことでした。最近でこそ伸び悩んでいるものの、長期の仕事を目的として来日する外国人は増えています。こうした人たちへの支援は、就業ビザを取って終わりというものではありません。日本語教育や住居の斡旋など、さまざまな面でサポートしていく必要があり、そのノウハウを外部に求める企業は多いのです。

筆者の佐藤敦規氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

地味に稼げる「土地家屋調査士」の仕事

 土地家屋調査士は、不動産を登記する際に必要な、土地や家屋の測量・調査・図面作成・申請手続きなどを行う専門家です。

 新築の建物は、完成時にどのような建物になるか、所有者が誰であるかなどを登記します。ほかにも、建物の所在・地番・家屋番号・種類・構造・床面積・所有者の住所など、所有者にその申請義務が課せられています。しかし手続きは複雑で、一般の人が自力で完了するのは難しいものがあります。そこで土地家屋調査士が、求めに応じて申請手続を代理で行っているのです。

 仕事の実情について、土地家屋調査士として都内で事務所を営んでいるBさんにお話を伺いました。すると、登記は必須であるため仕事は多く、独立1年目にして1000万円の売上を達成したそうです。

 Bさんによれば、顧客を増やすためには、他の士業同様に、「人脈を広げるのが大切」とのこと。支部活動や青調会(主に開業したての方による組織)、公共嘱託登記土地家屋調査士協会(役所関係の案件のための組織)などに加入すると、仕事を回してもらえる可能性があるということでした。

 需要の多い仕事ですが、実務では他の士業にはない難点も。真夏や真冬に野外で測量を行う過酷さや、測量機器などの専門道具を使える必要があることです。また、それらの道具を積み込み、不便な地に足を運ぶこともあるため、車も必須となります。したがって、Bさんによれば、「測量などの実務未経験者がいきなり独立するのは難しい」とのことでした。まずはどこかの事務所に所属するか、同業者の手伝いをしながら、実務を覚えていく必要があるでしょう。

 どの資格も、難易度が相応に高い資格ではあります。しかし、それは裏を返せば「参入障壁が高い資格」であるともいえます。その点を考えると、お金と時間をかけたとしても、挑戦する価値があるといえます。いまの「身動きの取れない状況」に活路を見出す手段として、検討してみてはいかがでしょうか。

 

■ 佐藤 敦規(さとう・あつのり)
 社会保険労務士。中央大学文学部卒。新卒での就職活動に失敗。印刷業界などを中心に転職を繰り返す。窓際族同然の扱いに嫌気がさし、50歳目前で社会保険労務士試験に挑戦し合格。三井住友海上あいおい生命保険を経て、現在では社会保険労務士として活動。企業を相手に、就業規則や賃金テーブルの作成、助成金の申請などの相談を受けている。資格取得によって収入が200万アップするとともに、クライアントの役に立っていることを実感し、充実した生活を手に入れた。お金の知識を活かして、セミナー活動や、「週刊現代」「マネー現代」「THE21」などの週刊誌やWebメディアの記事も執筆している。

 

佐藤氏の著書:
おじさんは、地味な資格で稼いでく。

佐藤 敦規