「応援したい!」の気持ちで人は買う
山梨県南アルプス市にあるさくらんぼ農園は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響を受け、一時は窮地に追い込まれていました。感染拡大の影響を受けたことで、観光バスの運行が休止し、さくらんぼ狩りができなくなってしまったというのです。
経営するのは90歳のおばあちゃん。孫のSNSを活用して、農園にかける想いや自分の置かれた窮地を発信した結果、商品発送が追いつかないほどに注文が殺到しました。もしも、この農園の発信を見て、「応援したい!助けたい!」という共感が生まれなければこのような購買にはつながらなかったのではないでしょうか。
また、筆者が運営している高級フルーツギフトショップ「肥後庵」でもかつて熊本地震発生時に似たような状況がありました。震災後、ほどなくして発送が追いつかないほどの注文があったのです。「故郷熊本のフルーツのおいしさを広げてくれる企業を応援したい!」というコメントは数え切れないほど頂きました。
相手から好感を持てるかどうかは、ビジネスの優秀さより重要なファクターなのです。
「デキる人」より「愛される人」
職場の人間関係においても、「デキる人」より「愛される人」が重要であるといえるでしょう。上述の東洋経済オンラインの記事内では、2005年の『ハーバード・ビジネス・レビュー』で公開された行動心理学の調査結果をもとに、
- 好感度は高いが、仕事はできない「愛される愚か者」
- 好感度は低いが、仕事はできる「できるが嫌な奴」
を比較しています。実は、好まれるのは「1」だということです。
あなたも、「仕事が抜群にできるけど、お説教をしがちな頼れる上司」より「仕事はそこそこだけど、大変さを理解して優しく接してくれる同僚」に仕事を相談した経験があるのではないでしょうか。人間は血の通った感情を持った動物であり、誰しも自己愛があります。たとえ、合理性や仕事の結果が求められる職場においても、自己愛が傷つけられる行動を回避したくなるのが人間心理と言えるでしょう。
相手がどんなに力がある人でも、こちらを見下す態度を取ったり、自慢やマウントを取る人にお願いしたいとは考えないものです。
SNSやブログ、動画メディアを使って、自分のロジックや正論ばかりを振りかざす人が見られますが、つけられたコメントの数が多いのに、フォローしている人は意外なほど少ないと感じることがありました。今回の話を踏まえて考えると、かつてと比べて求心力を持つのは「何をいうか」より「どういう言い方か」が重要という、共感社会へ変化してきたことの表れと考えると合点がいく気がします。
参考資料
- 岡本 純子『「頭の良さより「好感度」で人生が決まる納得理由」』東洋経済オンライン
- 添田 裕女『Withコロナ時代に再注目の「応援消費」、その新しい形と女性の“推しゴコロ”の作り方』MarkeZine(マーケジン)
高級フルーツギフトショップ「水菓子 肥後庵」代表 黒坂 岳央