今回は今いちど日本の高齢化の現状を振り返って、資産形成と資産活用をどう考えるべきかをまとめることにします。

日本の人口構造の現状と国際比較

国際比較できる国連データ(World Population Prospects, 2017 revision)でみると、2015年の65歳以上の人口比率、いわゆる高齢化率は、世界全体では8.3%、先進地域では17.6%です。

そのなかで日本は26.6%(2020年9月で28.7%)と世界で一番高い水準で、ドイツが21.1%、英国は18.1%、米国は14.6%といった水準です。アジアでは韓国13.0%、シンガポールで11.7%などが相対的に高い水準といえます。

またそのスピードを倍加年数(高齢化率が7%から14%に達するまでかかった年数)でみると、フランスが115年、米国が72年、英国が46年に対して、日本は24年と非常に短いことも指摘できます。

ただ、最近は韓国、シンガポールなどが高齢化のスピードが速いといわれています。倍加年数は、韓国が18年、シンガポールが20年と日本より短く、中国も24年と日本並みとなっています。

アジアは、高齢化が共通の大きな課題になっていますが、そのなかでも日本は高齢社会の課題先進国といっていいでしょう。

さらに日本の高齢化は21世紀に入ってから新しい局面に入ったことも見逃せません。これまでは高齢者が増えることで高齢化率が上昇してきたのですが、今後は高齢者がほぼ横ばいのなか現役層が減ることで高齢化率が上昇する局面になります。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、今後50年間で65歳以上の人口は3800万人程度で横ばいですが、15-64歳の人口は7000万人台から4000万人台へと3000万人以上減少する見通しなのです。

現役層が減る時代の資産形成と資産活用

こうした状況を考えると、今の現役世代は、将来自分が支えられる時代になったときに、今よりもかなり厳しい時代になると覚悟せざるを得ません。そのため、できるだけ資産形成を進めることが肝要になります。

長らく「貯蓄から投資へ」といわれてきましたが、個人金融資産の3分の2を65歳以上が保有する現状では、このスローガンは「高齢者の資産を貯蓄から投資に向かわせる」施策でしかありませんでした。

最近はNISAの導入、確定拠出年金の拡充といった現役世代向けの非課税制度が動き始め、スローガンも「貯蓄から資産形成へ」と変わってきました。すなわち、収入から資金が向かう先が銀行預金ではなく有価証券へと変わるべきという、”将来の高齢層”である現役世代向けのメッセージに変わってきたのです。

その一方で、金融審議会市場ワーキンググループなどの公式な場で、”現在の高齢者“に対する資産活用に関しても議論が行われるようになってきました。2017年から金融庁の公式な報告書のなかに「取り崩し」という文言が入り、2018年に閣議決定された「高齢社会対策大綱」でも資産の取り崩しが言及されるようになってきました。

資産運用や金融業界は、現役層の資産形成と退職者層の資産活用の両方に貢献する時代になってきました。そしてこの2つのアプローチが、高齢化の課題が山積する日本で有効になれば、遠くない時代に高齢化が急速に進展するアジアや世界に向かって提供できる価値あるソリューションとなるはずです。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史