この記事の読みどころ
- ここ数か月、経済紙や業界専門誌でリチウムイオン2次電池関連の話題が取り上げられる頻度が上がっています。これは、秋相場の流れの中で大きなテーマになる可能性を示唆していると考えます。
- 電気自動車(以下、EV)、プラグイン・ハイブリッド車(以下、PHV)などの環境対応車が世界的な成長段階に入ってきたことは周知の事実ですが、関連材料にもその影響が出始めています。
- 具体的には、リチウムイオン電池の正極材や電解質の原料となる希少金属のリチウムの供給不安が顕在化しています。原料の炭酸リチウムを取り出す塩湖などの環境問題などから、簡単には増産できないからです。
活発化するリチウムイオン2次電池関連の報道
最近のEV、PHV関連のニュースをピックアップしてみると、まず、テスラモーターズが2017年に発売する「モデル3」(小型セダン)の受注が好調なことを受け、電池を供給するパナソニック(6752)がテスラと共同で建設中の電池工場の稼働時期や増産投資を前倒しすると6月に報道されています。
続いて7月28日付の日経新聞では、リチウムイオン2次電池の重要素材であるリチウムの価格が、この1年で3倍に急騰したと報じられました。2019~2020年頃まで供給不足になる可能性も指摘されています。
世界のリチウム市場の40%を占める中国での需給がひっ迫したことが市況高騰の要因とされていますが、その背景には車載用電池の生産が繁忙を極めていることがあるようです。ちなみに、世界のリチウムイオン2次電池向けリチウムの需要は2015年で約6万トン、2020年には2.8倍の16.5万トンに拡大するという試算も紹介されています。
最近では、9月1日に住友化学(4005)がリチウムイオン電池の正極材メーカーである田中化学研究所(4080)を連結子会社化すると発表しました。前後して韓国のサムソンSDI(電池子会社)は、欧州車を睨み、ハンガリーに車載用の電池工場を建設すると発表しています。同社は世界最大のリチウムイオン電池のメーカーで(世界シェア22%、IDC調べ)、供給先はBMW、アウディ、タタグループ、フォードと言われています。
また、9月3日には、米国と中国が地球温暖化対策の新たな枠組みであるパリ協定(2015年末に採択)の批准を決めたと報じられています。特に中国では冬の暖房に石炭を使うため、自動車の排気ガスと相まってPM2.5の問題が深刻さを増していました。
その中国が、杭州で行われたG20首脳会議に先立ち、温室効果ガス2大排出国の米国と歩調を合わせるように批准を決定したことで、パリ協定の年内発効に向け大きく前進することになりました。今後、政府の補助金が付くEV、PHVの市場拡大、あるいは公共バスのEV化がますます加速されると思われます。
EVの本格的普及に備えるリチウム材料メーカー
ポケモンGOの爆発的人気で、スマホ用モバイルバッテリー(充電用)が相当売れたと聞いています。こうしたスマホ用充電器に使用されるリチウム量はたったの3グラムですが(炭酸リチウム換算)、EV1台に使用されるリチウム量は何と数千倍の20キログラムに達します。このため、EVで製造コストが最も高いのはリチウムイオン2次電池と言われています。
そのリチウムイオン2次電池は、電解液(電解質含む)、セパレータ、正極・負極の3つの主要材料から構成され、正極にはリチウム化合物が、電解質には主に六フッ化リン酸リチウム(LiPF₆)が使われています。
主要メーカーは関東電化工業(4047)、ステラ ケミファ(4109)、森田化学(未上場)、Foosung(韓国)ですが、中国の地場企業も続々参入している模様です。ただし、車載用になると高品質が求められるため日本企業の独壇場になっているようです。
テスラモーターズの「モデルS」に採用されているパナソニックのリチウムイオン2次電池の場合、正極材は住友金属鉱山(5713)のニッケル酸リチウムが採用されています。その住友金属鉱山は、2015年末に愛媛県新居浜の磯浦工場の生産能力を月産850トンから同1,850トンに引き上げました。
供給源が限られるリチウム資源。関連素材企業への影響は?
希少金属リチウムは銀色の金属で、海水や塩湖から炭酸リチウムとして採取されます。産地はチリ、ボリビア、豪州などに限られており、環境規制などのため、やたらと採取できるわけでもありません。そのため、世界中でEVが本格的な普及期に入ると、ますます需給がひっ迫すると言われています。
日本のリチウム関連製品は全て輸入原料で賄われています。最近、関連企業を訪問すると、これまでのようなリチウム関連素材の価格競争がほとんど見られなくなったという印象を受けました。今後は局地的なインフレ兆候が出て、関連素材の価格是正による収益改善が見られるかもしれません。
石原 耕一