「マイクロファイナンス」と聞くと、貧困層への少額の貸付、つまり「マイクロクレジット」を連想する方も多いかもしれません。しかし、マイクロファイナンスは、その他の少額の金融サービス(たとえば、少額預金や少額送金、少額決済)を包括する広い概念です。
その中でも特に注目されているのが少額の預金です。日本のような先進国に暮らす場合も、人生において最も必要な金融サービスは預金ではないでしょうか?
融資サービスを利用したことがない人は珍しくはないかもしれませんが、預金サービスを利用したことがない人(=銀行口座を持っていない人)は、そうそういないでしょう。途上国や新興国においても事情は同じで、預金サービスへのニーズの大きいのです。今日はその預金サービスがもたらす利益をご紹介します。
貧困層に安全な資産の保管場所を提供
日本に住む方々は当たり前の用に銀行口座を持っているかもしれませんが、途上国の貧困層には、銀行口座を持っていない人が数多く存在します。
世界で銀行口座を持っていない人の数は20億人に達すると言われており、彼等は貯金をしたくても安全にお金を保管する場所がなく、枕の下に保管したり、戸棚に保管したりしています。
当然ながら、このような資金保管方法は盗難や紛失のリスクを伴います。銀行口座を保有していない人の割合は特にアフリカや中南米で高くなっており、これらの地域での預金サービスの提供が待ち望まれます。
これらの問題は、金融機関が適切な預金サービスを提供することで解決することができます。日本においては空気のように当たり前に存在している預金サービスなので、ありがたみを実感することは少ないかもしれませんが、資産の安全な保管場所という意味で、預金サービスの果たす役割は途上国においては大きいのです。
金融機関側にとっての安価な資金調達方法
預金サービスのメリットは、顧客に安全な資金保管場所を提供できることだけではありません。金融機関側から見れば、預金は安く資金を調達する方法でもあるのです(預金者に払う金利の方が投資家に払う金利より安いため)。
そうはいっても、先日『非効率による高金利を引き下げられるのはフィンテック?』で紹介したように、金融機関側にとって預金口座を顧客ごとに開けたり、それを管理したりするのは業務が煩雑になり面倒という側面もあります。そのため、メキシコのマイクロファイナンス機関等は資金調達の大部分を投資家からの出資でまかなっています。
しかし、預金による資金調達は安価な資金調達以上のメリットをもたらす可能性もあるのです。
金融市場の安定をもたらす
2008年のリーマンショックによる金融危機後に行われた、預金と金融市場の安定性の関連についての調査で、非常に興味深い結果が発表されました。下図に示されているように、より多くの人が預金にアクセスのある国においては、金融市場が安定する傾向にある、という研究結果です。
それは、個人や家計は預貯金によって金融危機のリスクを緩和することができ、一方で金融機関は投資家からの資金調達が金融危機によって難しくなっても預金によって資金調達ができるからです。
このように、預金サービスは、金融機関、顧客、そして金融システム全体の3者に利益をもたらす、まさに「三方良し」のビジネスなのです。
途上国や新興国の信用市場への投融資を考える際には、その国の預金の動向に注目すると、貧困層の成長可能性や金融機関の金融危機に対処する能力、金融市場の安定性といった新たな視点から意思決定ができるかもしれません。
参考文献:
Massive drop in number of unbanked, says new report(The World Bank)
The global findex database 2014, Measuring financial inclusion around the world (The World Bank Group)
Financial inclusion for financial stability, Access to bank deposits and the growth of deposits in the global financial crisis(The World Bank)
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