定年退職後「地方都市移住」することのメリットは? コロナ禍も後押し

今回は退職後の移住を考えてみたいと思います。移住には心理的な障壁もありますが、男女別だと女性の方が、男性よりも「今住んでいるところにネットワークが強く築かれている」ことは容易に想像できます。学校関係のネットワークや地域のネットワークなどは、退職したからといって簡単に切り捨てることは難しいものです。

そのため、退職後に地方に移住するという考え方は、なかなか受け入れられないのもわかります。しかし、それによるメリットも大きいことを冷静に考えてみる時代にきています。

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医・食・税が3大費用

現役時代に比べて、退職後の生活費は少なくなるという一方で、思ったほど下がらないという声も聞きます。2017年にフィデリティ退職・投資教育研究所が行った50-60代を対象とした1万人アンケート調査で、「退職後の生活のなかで最も大きな支出は何か」と聞きました。

1万2,583人の回答者のうち、医療費を挙げた人は23.5%、介護費が3.6%、食費が23.2%、税金・社会保険料が19.5%でした。これらを合計すると7割になり、退職後の生活で大きな支出は「医、食、税」の3つだということがわかります。

医療・介護費用は、退職とともに増えるというものではありませんが、加齢とともに増えていかざるを得ないでしょう。食費は、現役時代に比べて増えなさそうですが、大きく減ることも期待できません。税金・社会保険料は、課税所得の減少で退職に伴っていったん大きく減りますが、人口減少・超高齢社会では長期的に徐々に増えていかざるを得ないでしょう。

生活のダウンサイジング—地方都市移住

3大費用のうち唯一コントロールできるのが食費ということになりますが、そんな寂しい退職後の生活は避けたいところです。そこで、生活の質を落とさずに、生活コストを引き下げる”生活のダウンサイジング”が必要になってきます。その方法の一つが、地方都市移住です。

地方都市移住に関するアンケート調査によると、退職後に地方都市に移住した人の8割強がその結果に満足しており、なかでも「生活費の削減が可能になった」と評価していることがわかりました。

特に地方都市の場合、主要都市でも大都市に比べて家賃は大幅に安くなっています。小売物価統計調査(動向編)でみると、大半の道府県庁所在地の家賃は、東京の半分程度です。消費者物価全般でみても低いところが多く、主要な地方都市でも、充分に生活のダウンサイジングが可能になります。

ちなみに、前述のアンケート調査では、新しい趣味、新しいネットワーク、家族の見直しといった移住後の新たなネットワーク構築がうまくいったと評価する人が合計で50.6%に達しています。ネットワークの断絶を恐れる女性目線で見ても、地方都市移住は再評価できるのではないでしょうか。

コロナ禍のリモートワーク増加で地方都市移住に見直しも

ところで今回のコロナ禍で大きく変わったのが、リモートワークの可能性です。コロナ蔓延防止策として、多くの人が自宅や自宅に近いオフィスから業務を継続しています。

常にオフィスに集まらなくても業務がこなせる職種があるということが否応なく実証され、地方都市に住んでいても、退職後に継続雇用を続けることができたり、オンラインで新しい仕事ができるという自信や納得感が広まったのではないでしょうか。

資産形成のほかにも、こうした生活費コストの引き下げも合わせて、検討する時代になってきました。

退職後に東京・大阪・名古屋から地方都市に移住した人の、移住に対する評価とその理由

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注:「良かった」との判断の理由とは、地方都市移住を行った人が「良かった」と評価したその理由で「良かった」と回答した253人に対する比率で表示。
出所:合同会社フィンウェル研究所、地方都市移住アンケート(2019年)

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史

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執筆者
野尻 哲史

合同会社フィンウェル研究所代表。国内外証券会社、大手外資系運用会社を経て、2019年5月に現職。資産の取り崩し、地方都市移住、雇用継続などの退職後の生活に関する提言を行っている。行動経済学会、日本FP学会などの会員などの他、2018年9月から金融審議会市場ワーキング・グループ委員。著書に『IFAとは何者か』(一般社団法人金融財政事情研究会)『老後の資産形成をゼッタイ始める!と思える本』(扶桑社)『定年後のお金』(講談社+α新書)『脱老後難民 「英国流」資産形成アイデアに学ぶ』(日本経済新聞出版社)など多数。