このところ、日本でも中央銀行の金融政策が何かと話題になっています。では、日本とは経済成長のステージが異なる新興国で、中央銀行の金融政策の巧拙と国の経済成長に相関関係はあるのでしょうか。
筆者は、事業でペルーの延滞債権に投資を行う機会を日本の個人投資家の方にご提供していますが、日本ではまだブラジル、トルコ、南アフリカ等、ごく一部の国を除く新興国に関する経済情報が少ない状況です。そのため、ブログで数度にわたってペルー経済の近況や新興国経済の見方をご紹介してきました。
当社子会社が行っている延滞債権投資はマクロ投資に近いところがあり、現在8万人程度の債務者の方を対象として、債権の減免および回収を行っています。そのため、大数の法則が効いており、回収事務がきちんとまわっている限り、投資先国のマクロ経済に大きな変調がないかが、投資事業のパフォーマンスへの影響を左右するファクターとなります。
今回はペルーの例を中心に、「新興国の経済が不調な時に中央銀行が景気を回復させる能力(ファンダメンタルズに裏打ちされた信用力)があるかどうか」と「その国が安定して経済成長する力があるか」の間に関係性があるかについて見てみます。
中央銀行の役割
一般的に中央銀行の役割は物価の安定を図る金融政策を行うことによってその国の経済が安定して成長することのサポートを行うことです。日本でも日本銀行法2条に「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」とあります。
学校の社会科で学んだ通り、ある国の経済成長の力が弱まると一般的な場合にはデフレ圧力も強まるため、中央銀行は政策金利を引き下げることで対応します。逆に、景気が過熱(多くの場合インフレ圧力を伴う)している場合には、中央銀行は政策金利を引き上げることで対応します。
上記のような最も一般的なシチュエーションであれば、比較的体力・信用力のない中央銀行でも対応が可能でした。しかし、問題となるのは、外的ショックや供給ショック(例えば産業の中心が農業である中の新興国で大きな自然災害が発生し農業の供給力が落ちる等)があり、不況とインフレ率の上昇が同時に起きた場合、体力・信用力のない中央銀行にはハンドリングが難しくなることです。
現在では、ブラジル経済の不調が、中央銀行が物価の安定を図れないためにその国の経済成長に悪影響を及ぼす代表的な一例になっています。
ペルーのケース
ペルーの中央銀行は今から約90年前に設立されましたが、つい20年ほど前までは体力も信用力もありませんでした。そのため、ペルー経済は1970年代後半から90年代前半までは非常に高いインフレ率(1990年のインフレ率はなんと7600%!)を経験し、経済は成長するどころか縮小してしまいました。
しかし、90年代以降の経済改革によって経済運営のシステム全般が改善されていき、ペルーの中央銀行の体力・信用力も徐々に高まっていきます。
それでも1998年にロシア危機が起こった際には、まだペルーの中央銀行は十分に外的ショックを緩和する能力を持ち切れておらず、ペルーの経済はその年マイナス成長となってしまいました。
しかし、その後もペルーの中央銀行の体力・信用力の強化は続き、ロシア危機のちょうど10年後、2008年のリーマンショックを迎えます。
その際は、ロシア危機とは外的ショックの大きさが桁違いであったにもかかわらず、ペルー経済は大規模な金融緩和と豊富な外貨準備の放出による通貨の買い支えを同時に行うことにより、すぐにV字回復を果たしてその後も経済成長を続けました。
中央銀行の体力・信用力が強い新興国の経済が成長する
下の図は、ラテンアメリカ諸国の各中央銀行が、どの程度物価の安定を図る行動を取れているかの比較表です(安定とは逆に景気の過熱、減速を増幅する施策が取られている場合はマイナス値で表示)。
ラテンアメリカ主要国の中で、中央銀行が合理的な行動を取れる体制や体力がある国はまだまだ少なく、ペルー、チリ、コロンビアのみのようです。
実際、中央銀行の体力・信用力があるペルー、チリ、コロンビアは、ラテンアメリカ諸国の中でほぼ常に低インフレ率、高経済成長率ランキングの上位に位置しています。特にペルーは高成長が目立ち、チリは安定度が高く、チリ政府の信用格付けは日本政府のそれより既に高くなっています(参考:Trading Economics)。
成長する新興国ができるまで
ここまで見てきたペルーのケースをまとめると、新興国が安定して高成長できるようになるには、
政治が合理的な経済運営を行える体制を作る
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中国経済の成長による世界経済の好調、のような追い風が吹いている間に一気に中央銀行が体力をつけ、体制と合わせて信用力が一気に増大する
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あとは景気の好不況にかかわらずその時々に適した金融政策が行われることで、持続的な高成長を遂げられるようになる
という道筋をたどっていることが見てとれます。
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