外貨準備高の週次データは、7月17日現在で過去最高の5,180億米ドルに達した。外貨準備高の持続的な増加の背景には、経常収支、対外商業借り入れ、外国直接投資のすべてが著しく改善したことがある。

ポートフォリオ投資は、3月に起きた世界的な株価暴落を受けて、2019年度第4四半期(2020年1-3月)は過去最大の137億米ドルの流出を記録した。しかし、外貨準備増減部分を除いた金融収支は170億米ドルの黒字を記録した。外国直接投資の堅調な流入(120億米ドル)と四半期ベースとしては過去最大を記録した対外商業借り入れ(104億米ドル)が大きく貢献したためだ。

対外商業借り入れは、国内金融市場の引き締め状況をある程度反映しているため、インド企業のバランスシート改善と資金繰りに伴う借り入れ需要を考えると、増加が続く可能性がある。

また、明らかにポジティブな変化が、最近数四半期を通して見られた。それは外国直接投資の堅調な拡大傾向である。新規の外国直接投資の対国内総生産(GDP)比そのものは2019 年度第4四半期で1.6%、2019年度全体で1.5%と小さいように見えるが、2019年度の新規投資額は560億米ドルで過去最大となっている。

一方、外貨準備高の最近の積み上がりは、コロナ禍による景気の後退と国内金融環境のタイト化に対応するために、市中に資金を供給する必要がある中央銀行にとって、重要な「資金源」となっている。

6月の通貨供給量(M3)は前年同月比12.3%増で、2014年11月以来最大の伸びとなった。増加の要因は、外国為替市場介入と、市中銀行に流動性を供給するための公開市場操作であった。

外貨準備高が適正水準を満たす大きな規模で維持されているという事実は、世界的な金融不安の波及に対するインドの緩衝機能がそれだけ強化されたことを意味する。急激なルピー安圧力への対処や短期的なルピー相場の乱高下を抑制する中央銀行の能力は、それだけ高まったと言える。

経常収支の改善は2021年度を通して安定的に続く見通し

インドの貿易収支は6月に2002年4月以来初めて黒字となった。18年ぶりの黒字額は8億米ドルとわずかだが、輸入規制緩和が遅れる一方で、輸出の正常化が順調に進んだことが要因として考えられる。

ただし、当社は、貿易黒字が持続する可能性は低いと見ている。その理由の1つとして、輸出と輸入の成長の時間差を挙げることができる。

インドでもコロナ禍対策で規制した経済活動が段階的に緩和されてきたものの、国内経済の正常化では多くの諸国に遅れを取っている。6月に正常化が進んだ輸出についても、特に今後の世界経済の動向や外需見通しは不透明であり、状況は厳しい。実際に、多くの国が新型コロナウイルス感染の再拡大を防ぐために行動制限を再導入する動きを強めている。ほかにも、国際的なサプライチェーンの混乱の長期化と地政学的な緊張がリスク要因となっている。