「江戸時代の話。宿場町まで行って遊び惚けて家のお金を全部つぎ込んでしまい、村の人からお金を借りて最後は追い出されたのよ」と自分の目で見たことのようにスラスラ話してくれました。

こうした伝承は洪水や土砂災害、津波や地震といった天災に関わるものならば地域住民を救う大切なものです。しかし、母から聞かされたのは昔のゴシップネタ。この他にも近くにある峠は筆者の祖母が嫁に来た頃は山賊が出ていたなど、時代劇のような話を幼少期からずっと聞かされて育ちました。

田舎と街を行き来した経験を持つ筆者が、都会育ちで祖父母の家も都会という夫にこうした話をしたところ、とても驚かれたものです。田舎は都会のように住民が入れ代わり立ち代わりする場所ではありません。新陳代謝がほぼ行われないことで、一度でも悪いことをするとずっとその土地で伝承されていく恐ろしさを、子供ながらに感じていました。

近隣集落に大勢の親戚が住む”濃い”世界

田舎には”濃い”コミュニティが成り立っています。そのため噂話が瞬く間に広まり根付く印象がありますが、なぜなのでしょうか。たしかに、人の入れ代わりがほぼないため、先ほどのような大昔の悪い噂話が脈々と受け継がれてちまう風土があります。

しかし、幼少期から田舎を垣間見ている筆者からすると、都会とは違う人間関係が影響していると思います。田舎の場合、集落に親戚が複数住んでいたりするケースは珍しくありません。同じ地区でなくても、隣接する集落に親戚が多数存在することはよくあります。