しかし、あれだけ望遠鏡に大喜びしていたにもかかわらず、息子はいっこうに望遠鏡を使うそぶりを見せません。箱から出されもせず何週間も放置されている望遠鏡。しびれを切らしてAさんがたずねました。

「ねぇ、望遠鏡で空を見てみないの? 本当はほしくなかったの? 全然使わないじゃない」

すると息子はこう答えました。「すごく使いたいけれど…ママはいつも『物を大切にしなさい』っていうでしょ? これはボクの宝物だから、使わずに大切にしまっておかないといけないと思ったんだ」

「物を大切にする」ってどういうこと?

さらに、とある家庭でのこんな話も聞いたことがあります。夫はとにかく物が捨てられない人。サイズアウトした洋服や故障した小型の電化製品など、とにかく「捨てるのはもったいない」と取っておくのだそうです。妻がそれを非難すると「俺は物を大切にしているから、捨てられないんだ」と答えるのだとか。

Aさんの息子さんといい、この“捨てられない”ご主人といい、果たして「物を大切にしているのか?」と聞かれると、ちょっと首をかしげたくなります。では、いったい何が正解なのでしょうか。

「丁寧に使うこと」「長く使うこと」、それはもちろん大前提。そして、そこにもうひとつ「物に思いを込める」ことが大きな要素ではないか、と筆者は考えます。

皆さんにもこんな経験ありませんか? 母親が作ってくれた手提げ袋を持って歩くのがとてもうれしくて、汚さないように丁寧に扱っていた。あるいは手作りの洋服がうれしくて、毎日それしか着ようとしなかった…。

そこには「大好きなお母さんが自分のためだけに作ってくれたもの」という思いがあります。その思いを「使うこと」で表現する…これこそが「物を大切にする」ということではないでしょうか。