東京大学が9月入学を検討したことにより、地方国立大学法人も、それならば、と独自に9月入学制度を検討し始めました。しかし、東京大学がいつの間にかアドバルーンを降ろしてしまい、地方国立大学法人も東京大学に右にならえになってしまった経緯があります。

この9月入学の議論は、単に入学制度の改革に留まらず、我が国の教育改革全般にも通じるものでありました。したがって、せっかくの議論の機会を議論のための議論で消滅させた東京大学の頓挫は誠に残念であったと言わざるを得ません。

ギャップタームは本当にデメリットか

東京大学の秋入学構想が頓挫した最大の理由は、上記の3、4のような「ギャップターム」のデメリットが重くのしかかったためと推測できます。

このギャップタームは、東京大学の9月入学検討懇談会が作った和製英語で、もともとはイギリスの「ギャップイヤー(Gap Year)」制度なるものに由来します。大学に入学する前の1年間、あるいは卒業後の1年間、会社などでのインターンシップ、海外留学など、大学では得られない多様な経験を積む期間です。

イギリスでは、一般的に卒業までの履修期間は3年であるので、このギャップイヤーを入れて4年ということになり、我が国の大学卒業履修期間である4年に並ぶことになります。ちなみに、イギリスから日本に来る英語指導助手(AET、Assistant English Teacher)は、この制度を使って来る場合が多いのです。

このイギリスのギャップイヤーの趣旨を考えれば、ギャップタームは決してデメリットではないでしょう。むしろ、我が国の教育改革を考えると、大学の授業では得られない多様な経験を積むギャップタームを取り入れるべきであると考えます。

実現しなかった東京大学の9月入学構想は、他大学の入学卒業時期、高校の入学卒業時期、企業への就職時期、企業の採用活動などの議論に一石を投じました。しかし、小学校、中学校、高等学校全体を含め、国を挙げて議論する機会にならなかったのは、最高学府の東京大学といえども力不足であったと言えるかもしれません。