前回、『高校生が声を上げた「9月入学の導入」、議論を先送りにしていいのか?』でも述べたとおり、9月入学というのは極めて難しい課題です。特に今回のコロナ禍による動きについては、以下のような声もあります。

  • 「学習の遅れを取り戻す」と「グローバルスタンダードの実現」は切り離して考えるべき
  • 現時点においても混乱しているのに、さらに混乱に拍車をかけるのは望ましくない
  • 9月入学は元々、半年の前倒しの議論だったが、今回の議論は半年遅らせる議論
  • 9月入学問題がなぜ教育改革や社会改革につながるのかが明確になっていない

9月入学問題は、我が国の社会が変容せざるを得ない一大プロジェクトです。どこから手をつけたらいいのか、改革の仕方は色々ありますが、長いこと大学教育の現場にいた者として、まずは大学から始めるべきだと考えます。

その理由は、以前にも大学の9月入学について議論された経緯があること、高等教育の場である大学が変われば中等・初等教育への波及効果があること、そして今後の日本の社会・経済を担う人づくりにも直接的につながるからです。

途中で頓挫した東京大学の9月入学構想

今から9年前、東京大学で各学部の4月入学を廃止し、欧米の主要大学と同じ9月~10月入学への移行を検討する懇談会が立ち上がりました。その中間報告が2012年1月に発表され、同4月に報告書が提出されました。その報告書に記載されている9月入学のメリットとデメリットの骨子は次の通りです。

  1. 我が国の4月入学制度は「国際的に特異」であり、欧米と同じ秋入学(9月~10月)に移行することで、留学生の送り出し・受け入れがスムーズになり、学生・教員の国際流動性が高まる
  2. 学期のズレが緩和・解消されれば、留学の制約となる金銭面・時間面のコストは軽減され、国立大学として、将来の日本社会での指導的な役割を担う、国際性を備えた人材を送り出すことができる
  3. 大学入試は1月~3月、高等学校卒業は3月なので、大学入学までの半年間の「ギャップターム」(次の項で説明)が生じる
  4. 企業や官庁の採用が4月なので、大学卒業後の半年間の「ギャップターム」も生じ、高等学校卒業から就職まで5年を要することになる