文部科学省の試算によれば、9月入学により、小中高生がいる家庭の追加負担は2兆5千億円に上ると言います。また、9月入学を実施すれば、新1年生は4月から翌年の8月まで17カ月に再編しなければならず(文部科学省は3つのパターンを提示)、初年度教員が約2万8千人不足し、保育所の待機児童は26万人超に上るとの報告もあります。

以上のような視点から9月入学導入は拙速との意見は根強くあり、ショックドクトリン(どさくさに紛れて改革すること)だと切り捨てる人もいます。しかし、現実に3カ月近い休校となった影響は複数年にまたがることも十分考えられます。

その渦中に置かれる子供たちのことを考えると、安易に先送りしていい問題ではありません。冒頭に述べた通り、直近の導入は見送りへとの報道が出ていますが、教育改革の観点からも議論を続けていくべきと思います。

9月入学問題を契機に日本の教育・社会改革を

9月入学問題は、日本の総力をかけても準備に数年を要する大プロジェクトです。しかも、社会への影響は頓挫した大学入試改革どころではありません。それをこのコロナ禍の大混乱のさなか、本当にできるのかと懐疑的にもなるでしょう。

それでも9月入学問題を契機に日本の教育そのものを改革し、ひいては閉塞感に満ちた社会を変えなければならない。それがコロナ禍からの教えであるように思います。実際、コロナを経験した私たちは、ポストコロナの時代を生き抜くためには社会が大きく変わらなければならないことを悟っているはずです。

どのような社会に、どのように変えるのか、この問題は極めて難しいことですが、少なくとも「人間らしく生きられる社会づくり」を目標に、「人づくり教育」から社会を変えなければならないように思います。

それでは、9月入学改革をどのように進めるべきなのでしょうか。何から何までを一挙に達成することは不可能です。それならば、まず大学の9月入学から始めるべきと考えます。これについては次回の記事で述べたいと思います。

【参考資料】「新学期は9月スタートに! ネットで声を上げる高校3年生たちの苦悩」(朝日新聞EduA)

和田 眞