プライバシー保護と監視資本主義の失敗

基本的にスマートシティは、人々の行動や情報、様々な現象データをインターネットを介して収集蓄積し、それを地域の課題解決や効率化のために活用していきます。

しかし、蓄積された個人情報を自治体が街の効率化のために使うだけではなく、企業がビジネスのために使うとなると、個人のプライバシーがどこまで守られるのかという懸念は拭えません。

前出のサイドウォーク・ラボがトロントのプロジェクトを断念せざるを得なかったのは、この「プライバシーへの配慮」が足りなかったからだろうといわれています。

同社CEOのダン・ドクトルフ氏は断念する理由として、COVID-19パンデミックによる経済的な問題を挙げています。

しかし、ニューヨーク・タイムズ(※4)によれば、サイドウォーク・ラボの計画は「初めからしくじっていた」というのです。これはそもそも、「監視資本主義(surveillance capitalism)の失敗だ」と、評論家たちは述べているようです。

確かにサイドウォーク・ラボは、第三者の企業などが住民の行動履歴や個人情報にアクセスできるように計画していました。これにより、住民を敵に回し計画が難航したのです。

その点、トヨタと NTTは「(データの使い方は)使ってもらう人が幸せになるやり方がいい」(豊田社長)として、「収集データはNTTとトヨタが保有する形はとらない。あくまでデータを提供する市民や都市に帰属するとの位置づけだ(※5)」と、しています。

NTTは2018年、このようなデータにこだわらない姿勢から、米ラスベガス市から信頼を得てスマートシティ推進のパートナーとして選ばれています。

日本は、スマートシティの取り組みが出遅れているという意見もあるようですが、NTTをはじめ日本企業の技術や戦略は世界中のスマートシティ開発において既に高い評価を得ています。

日本の技術力と日本ならではの気配りを活かし、パンデミックでの経験を考慮した新しい時代に合った、誰もが安心して暮らせるスマートシティの実現に期待が高まります。

【参考】
(※1)「トヨタ、「コネクティッド・シティ」プロジェクトをCESで発表」TOYOTA
(※2)「スマートシティの社会実装を加速!全国のスマートシティを牽引するモデルプロジェクトを追加公募します」国土交通省
(※3)「つくばスマートシティ協議会で顔認証等によるバスの乗降車の実証実験を実施しました」茨城県
(※4)“Google Sibling Abandons Ambitious City of the Future in Toronto”The NewYork Times
(※5)「トヨタとNTTが提携、スマート都市基盤を共同開発」日本経済新聞

美紀 ブライト