反対に、北朝鮮が中国と関係をこれまで以上に緊密化し、中国の影響力が北朝鮮を覆うようになると、それは北緯38度ラインまで中国の影響力が南下することになり、米国の軍事勢力圏と接することになる。米国としてもそれはなんとしても避けたいシナリオである。

要は、北朝鮮とは、米中それぞれの勢力圏のちょうど狭間に位置する国家であり、北朝鮮も十分にそれを理解している。そして、上述したように複雑な米中関係を巧みに利用することで、自らの体制維持や繁栄・発展を模索しているのである。

ポストコロナ時代において、米中関係はこれまで以上に対立が深まることが予想される。そうなると、北朝鮮にとっては抜け道が多くなり、東アジアの安全保障はいっそう複雑さを増す危険性がある。

朝鮮半島有事の際、日本人をどう退避させるか?

以上のような行方に照らすならば、2017年の朝鮮半島危機のように、在韓邦人の安全をどう保護するかという議論は今後とも続く。

筆者は、海外危機管理のコンサルティング会社でアドバイザーもしているが、同危機の際、韓国に進出する日系企業の間で、いかに駐在員や出張者を安全に帰国させるかで大きな議論となり、朝鮮半島情勢について多くアドバイスしたことを思い出す。

何かしらの有事が発生した場合、ソウルにいるかプサンにいるかでも、その後の安全対策は大きく異なる。

韓国には空港が少なく、有事の場合にはまずそこが戦略的に狙われるので、南下できるように自転車を前もって用意しておくなどの話もあった。日本政府内でも、在韓邦人をとりあえずはプサンから南50キロほどの対馬に移動させるなどの議論もあったらしい。

2017年の危機は回避されたが、引き続き潜在的なリスクがある。今のうちから朝鮮半島有事の際の邦人保護対策を官民一体となっていっそう進めたい。

和田 大樹