これは米国に限った話ではない。1980年代以降の世界の株式市場で、内因性と外因性のベアマーケットのリターンの明暗が分かれている(図表4参照)。
新型コロナウイルス危機は内因化するか?
新型コロナウイルスの感染拡大が「外因性」であることは明らかだが、マクロシステムで「内因化し」、より大幅に市場が下落し回復が遅れる恐れがある。問題は、衝撃がつけこもうとするシステミックな弱さが十分にあるかどうかである。
今回は危機の急所は金融セクターではなく実体経済である。いずれにせよ、(上述したように)金融セクターの最も脆弱な部分は2008年当時よりも体力が増している。さらに、金融情勢の総合指数も2008年ほど圧迫されていない。ただし、事態が長引けば、危機が悪化するリスクはある。
むしろ、「危機が内因化」する最大のリスクは経済に根差しており、具体的には、マクロ経済への短期のダメージが中長期の成長のダイナミクスに影響を及ぼし阻害するかどうかが問われている。
エコノミストの間ではこの現象は「ヒステリシス」として知られているが、一般的にはこの現象は労働市場や世界貿易で見受けられる。景気循環に伴い高い失業率が続くと経済の自然失業率も上昇し、中期の経済成長が損なわれることが、典型的な例として挙げられる。
現在の実体経済の問題は、ビジネスと家計を支えることに重点を置いた政策対応を必要としている。多くの国がすでにその対策に着手していることは朗報である。
こうした政策対応はヒステリシスのリスクを抑えることに役立つはずであり、景気が今年後半に速やかに改善し始めた場合は特にそうである。しかし、サプライサイドにすでに何らかのダメージが起きた恐れもある。
たとえば、世界の貿易が激減した結果、貿易のパターンは危機後に変化する可能性が高い。さらに、地域ごとの重要な影響も考えられる。少なくとも過去の例で見ると、欧州経済は景気後退後の長引く経済の傷跡に翻弄されてきた。
当面は新型コロナウイルスの感染拡大を外因性の事象とし、成長に敏感な資産クラスには反発力があるとみなす。ただし、「危機の内因化」リスクを注視していくことが必要である。
HSBCアセットマネジメント チーフ・グローバル・ストラテジスト
ジョー・リトル(Joe Little)他