図表2は、いわゆる「2曲線問題」として世界の政策当局が直面している現在の課題を示したものである。政策当局はまず、新型ウイルス感染の「疫学的曲線を平坦化」し、医療体制を崩壊から守ることに注力している。しかし、厳しい封じ込め策は経済的コストを伴い、第2の問題である「景気後退曲線」を招くことになる。

総力戦

経済政策で命に関わる危機を解決することはできないものの、「景気後退曲線」を平坦化することは可能である。

過去数週間、政策当局は大胆かつ迅速に行動してきた。米国の政策対応を見てみよう。2008年9月の「リーマンショック」後、米連邦準備制度理事会(FRB)が金利をゼロに引き下げて量的緩和(QE)を開始するまでには2カ月を要し、財政政策の発表は2009年2月にずれこんだ。

今回は当時より大規模な金融・財政政策を2週間で実施している。国際通貨基金(IMF)のウェブサイトに掲載され、日々増加している膨大な「政策トラッカー」は、世界各国の政策支援のスピードと規模を浮き彫りにするものである。

現在の米国の財政刺激策に伴い、財政赤字は世界金融危機当時を上回りGDPの10%に達するとみられている。主要国の間では、財政赤字の対GDP比率が10~20ポイント上昇する可能性がある。金融当局は利下げ、制約のない量的緩和、金融市場と実体経済に的を絞った支援を実施しており、財政政策は金融当局とも「足並みを揃えた」内容となっている。

総合的に判断して、危機発生前に広がっていた政策当局の「弾切れ」という懸念は払しょくされた。代わりに、政策当局は大恐慌や世界金融危機で犯した過ちを教訓に、極めて低いインフレ、原油価格、債券利回りがもたらした「政策余地」を活用している。

今回の危機はリーマンショックの再来か?

史上最速のベアマーケット突入後、多くのアナリストが世界金融危機と今回の危機との類似点を挙げている。これは、景気後退の動向、その後の回復、投資市場の見通しを占う上でカギとなるものだ。

金融市場が景気後退を織り込んだことは明らかである。ディフェンシブな資産クラスに対して経済成長に敏感な資産クラスのロング・ショートと均等ボラティリティ加重バスケットを追跡しているHSBCマーケット・インプライド・グロース指数は、2008~09年以来の水準まで落ち込んでいる(図表3参照)。