民度の低さを気にする彼

しかし、その頃から裕子さんは彼の言葉に他人を軽んじる気持ちが見え隠れすることに気づき始めましたと言います。例えば、裕子さんが地元のショッピングモールに行ってきた話をすると博史さんは「そういう場所は民度が低い人が多いから、今行くのは危険だよ」と露骨に顔をしかめたそう。「彼はもともと頭がよく、勤務先も大手。日常会話に若者言葉は出てこず、言葉のチョイスに語彙力を感じていました。そんなところが素敵だと思っていましたが、その言葉を聞いてからは、もしかしたら心の中では他人を見下しているのかもしれないって思いました。」

交際から3ヶ月が経とうとしていた頃に垣間見えた、彼の意外な一面。裕子さんは衝撃を受けましたが、別れを切そうとは思わなかったそう。なぜなら、自分に対しては優しいままだったからです。出会った頃よりデート中の気遣いは減っていましたが、人よりも歩くペースが遅い裕子さんの歩幅に合わせてくれたり、バレンタインのお返しにディナーをごちそうしてくれたりと、愛情が感じられる行動は見られたため、博史さんのことを“他人には厳しくて、私だけに優しい男性”だと思っていました。

誰にでも優しい人は男女問わず、いまいちモテないもの。私たちは自分にだけ優しい人を特別視してしまう傾向があるように思います。裕子さんの心にもその心理はあり、他人を見下す博史さんの発言を不快に思いながらも、一方では他人に対して厳しい言葉を吐く知的な男性が自分のことだけは気遣ってくれるという事実をどこかで嬉しく想い、優越感に浸っていたのです。「もしかしたら、彼といることで自分も知的な人間みたいに思えて、嬉しかったのかもしれません。」