西川:実はオリンピックのような国際的なイベントは、本人が楽しいだけではなく、本人の成長にもつながるのです。

というのもオリンピックなど国際的なボランティアの場合、性別も年齢も職業も異なる多様な人と一緒に活動することになります。外国人のボランティアと同じチームになることもあるでしょう。宗教もさまざまです。ムスリムの方もいます。さらに障がい者の人やLGBTQ(性的少数者)の人たちもいます。

日本人は同質的と言われたり、均一性が高いと言われたりすることがよくあります。このような多様な人たちと一緒に活動できる機会はめったにありません。逆に言えば、このような環境でボランティア活動をすることで多様性を受け入れることの大切さを学ぶことができます。

――私もボランティア活動への参加や、東京2020大会の研修などを通じて、多様性の大事さを意識するようになりました。

西川:欧米では企業の管理職の人たちが率先してボランティアに参加します。しかも、大手企業の役員や経営者クラスの人たちも珍しくありません。なぜでしょうか。それは会社のシステムが使えない中で、自分の個人としての能力が問われるからです。

会社であれば「部長が言うから」と、肩書きで部下が動いてくれるかもしれません。しかし、ボランティアの現場では、ボランティアリーダーが指示したからといって、納得しなければメンバーは動きません。そこが、ボランティアはお金のためにやっているのではないということなのです。

ボランティアのチームには、下は10代から上は70代、80代の方、障がいのある方、外国人などさまざまな人が参加します。ボランティアリーダーは一人一人の能力を見極めながら、仕事を任せ、モチベーションが維持できるように配慮しなければなりません。逆にメンバーは、「自分にできること」をしっかりとやるといういう点で、自分自身のリーダーシップを発揮することが求められます。

最近では日本のビジネスの現場でも、カリスマ的なリーダーよりも、多様な人材を集めてチームを組み、ポテンシャルを引き出す、ファシリテーター型リーダーが注目されているそうですが、ボランティアの現場ではまさにそのようなリーダーシップを学ぶことができるのです。

この1年をさらにボランティアとしてブラッシュアップの時間に

――ボランティアに参加する本人だけでなく、送り出す側の家庭や学校、企業にもメリットがあると。

西川:そのとおりです。私も東京2020大会の共通研修の講師を務めています。8万人の大会ボランティア、3万人の都市ボランティアがハード・ソフト両面でのバリアフリーを学んでいます。もちろん、研修を受けたその日からがらりと変わるわけではないですが、受講した人からは「今まで意識していなかった」「新しい気付きを得られた」という声が少なくありません。