――「オリンピックは大きなお金が動く商業イベントにもかかわらず、ボランティアが無償なのはコストの安い労働力と見なしているからだ」という意見もあるようです。
西川:それも、「ボランティアとはやむなく無償奉仕をする存在だ」と考えるからですよね。そうではありません。ボランティアとは「できる人が、できるときに、できることを」やることなのです。たとえば駅で迷っている外国人旅行者の人がいれば道案内をしてあげるのも、バスでベビーカーを降ろすのを手伝うのもボランティアです。SNSで何かを知りたい人に知っている人が教えてあげるのもボランティアです。
もう一つ大切なのは、ボランティアは決して与えるだけではないことです。むしろ得られるものが大きい。道を教えたら「ありがとう」と言ってもらえます。片言の英語でも通じた喜びが得られます。外国人旅行客の中にはSNSなどで「日本でこんなに親切にされた」と投稿する人も多いです。自分のことでなくても、日本のイメージをよくする一助になったのではないかと考えればうれしいですよね。
もちろん、オリンピック・パラリンピックのように国際的なスポーツイベントならば、自分がその一員として、大会成功に貢献できたというのも大きな喜びになるでしょう。
――サッカーや野球、バスケットボールなどのプロスポーツもビジネスではありますが、多くのボランティアが支えています。映画撮影のエキストラもほとんどが無償です。いずれも、チームや作品を応援したいという気持ちで活動をしているのでしょうね。
「プロ」があえてボランティアとして参加する理由
――有償・無償の点で言えば、一時期「パソナの派遣社員とボランティアは同じような活動をするのにパソナは有償で、ボランティアは無償」と話題になったことがありました。
西川:一度でもオリンピックに携わったことのある人なら、パソナなど派遣会社による組織委員会のスタッフの仕事と、ボランティアの仕事は指揮命令系統も活動内容もまったく異なるということは知っています。
ただ、今回の東京2020大会のケースでよくなかったのは、「仲間になって一緒に大会を成功させましょう」といったイメージで訴求してしまったことです。ロンドン大会でもリオ大会でも、組織委員会が雇用する職員が多数活動しました。しかしその場合でも、職員の場合は「一定の期間にどのようなミッションをこなさいといけないか、そのための対価はいくらか」と職種ごとにしっかりと明示されていました。「仲間として参加しませんか」だけではダメなのです。
ただ、その背景もわからないわけではありません。というのもこれは日本の新卒一括採用の慣習なのです。どんな仕事をするかもわからず入社を決めるのは日本ぐらいです。日本特有の雇用制度のよくないところが出てしまいました。