そもそも妻たちは、離婚すれば生きていくことが難しかったのです。限界ぎりぎりまでの我慢を妻に強いても、離婚をさせないような社会であったのでしょう。
筆者の周辺でも、離婚の恐怖におびえる妻の話はそう珍しいことではありませんでした。思い出すのは、対照的な二人の妻です。一人は、妻の役割を捨て、母親の役割を選びました。
生まれたときから羽布団にくるまって育った夫に対して、妻はごく普通の農家育ち。遠縁ではあるのですが、家柄の違いは結婚生活にも響きました。
学術的な会話しかしない夫、難しいことには全く興味のない妻。食生活の違い、つきあう人の違い、つきあい方、何から何まですれ違ったそうです。やがて、夫が帰宅しない日が増えていきました。
周囲は、妻にこう言ったそうです。
「ご主人に合わせていかないと、追い出されるよ」
「少しはおしゃれして、もう少し上品にしないと、男に逃げられても文句は言えない」
そして最後は、必ずと言っていいほど、こう締めくくりました。
「ご主人がいなくなったら、奥さんは生きていけなくなるんだから」
妻の答えは、決まっています。
「出て行ってもいいよ。いらないから」