9. 給付を受ける権利には、4つの決まりがある:退職しても変わらず、税金がかからず、差押えもできない

条文には、保険給付を受ける権利について、使う前に知っておきたい規定があります。まず、保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはありません(第12条の5)。

次に、租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課すことはできません(第12条の6)。受け取った給付には、税金などが課されない、という趣旨です。

さらに、保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、または差し押さえることができません(第12条の5)。ほかに、保険給付の原因となった事故が、第三者の行為で生じた場合は、政府が、給付の価額の限度で、第三者への損害賠償の請求権を取得します(第12条の4)。

10. 【編集者の視点】

今回、条文を読んでいちばん意外だったのは、「退職しても権利が変わらない」と、条文にはっきり書かれている点です。仕事中のケガで会社を休み、そのまま退職した人は、「辞めたら労災は使えなくなる」と思い込みやすいと考えられます。

ただし、条文が定めているのは、権利が退職で変更されないことです。給付を請求する手続きや、時効の期限は、別に決まっています。退職後に請求する場合も、時効の期限に注意が必要です。

この記事は、特定の扱いを保証するものではありません。個別の事情で、労災に当たるかどうかは、労働基準監督署が判断します。必ず、所轄の労働基準監督署に確認してください。

※本記事は、編集部が厚生労働省の公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。

11. 保険料は、原則として事業主の負担。労災保険事業の費用は、政府が徴収する保険料でまかなう

厚生労働省のページによると、労災保険の費用は、原則として事業主の負担する保険料でまかなわれています。条文は、労災保険事業に要する費用にあてるため政府が徴収する保険料について、徴収法の定めによると規定しています(第30条)。

そのため、会社員やアルバイトの給与明細には、健康保険料や雇用保険料のような、労災保険料の天引きの項目は、通常は出てきません。ただし、保険料の料率は、事業の種類によって、労災保険率表で定められています。

特別加入の場合は、加入した本人が保険料を負担する仕組みになります。個人事業主や一人親方の保険料の決まり方は、別の記事で、給付基礎日額と料率の例で整理しています。

12. 請求と時効:給付は請求に基づいて行われ、療養などは2年、障害と遺族は5年で時効にかかる

労災の保険給付は、請求に基づいて行われます。条文には、業務災害の給付が、労働者や遺族、葬祭を行う者に対し、その請求に基づいて行うと書かれています(第12条の8)。請求書は、労働基準監督署が窓口です。

時効は、条文で定められています(第42条)。療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付などは、行使できる時から2年を経過したとき、障害補償給付と遺族補償給付などは、行使できる時から5年を経過したときに、時効によって消滅します。

通勤災害の療養給付、休業給付なども、条文では、同じ2年と5年の区分に入っています。給付ごとに、権利を行使できる時が、いつからなのかは違います。期限を過ぎたかどうかは、個別に確認が必要です。

13. 令和7年の労働災害:休業4日以上の死傷者は13万5333人で、1日あたり約371人。死亡者は700人で、過去最少

厚生労働省が令和8年5月27日に公表した令和7年の労働災害発生状況によると、新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除く、労働災害による死亡者数は700人で、前年より46人減り、過去最少でした。

休業4日以上の死傷者数は13万5333人で、前年より385人、0.3%の減少です。これらの件数に、通勤中に発生した災害は含まれません。業種別では、製造業、商業、保健衛生業、陸上貨物運送事業の順に多くなっています。

休業4日以上の死傷者数を、365日で割ると、1日あたり約371人です。死亡者数は、約2人です(編集部試算)。労災が、特別な人だけの話ではなく、毎日、どこかで起きていることが分かります。

令和7年の休業4日以上の死傷者が多い業種は?上位4業種と割合を確認(厚生労働省の公表資料を基に整理)

前提条件:厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」(令和8年5月27日公表)。新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除く。通勤中の災害は含まない。割合は、全体の13万5333人に対する各業種の死傷者数の割合で、編集部が試算した
業種 死傷者数 前年比 割合
製造業 2万6371人 305人減 19.5%
商業 2万3128人 1089人増 17.1%
保健衛生業 1万9291人 424人増 14.3%
陸上貨物運送事業 1万5632人 660人減 11.6%
全業種の合計 13万5333人 385人減 全体

出所:厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況を公表」を基にLIMO編集部作成

13.1 【令和7年の休業4日以上の死傷者数:多い上位4業種と割合】

  • 製造業:2万6371人で、前年より305人減りました。全体に占める割合は19.5%です。
  • 商業:2万3128人で、前年より1089人増えました。全体に占める割合は17.1%です。
  • 保健衛生業:1万9291人で、前年より424人増えました。全体に占める割合は14.3%です。
  • 陸上貨物運送事業:1万5632人で、前年より660人減りました。全体に占める割合は11.6%です。
  • 全業種の合計:13万5333人で、前年より385人減りました。

表を見ると、製造業が最も多い一方で、商業と保健衛生業は、前年より増えています。上位4業種を合わせると、全体の約6割です。店で働く人や、医療・福祉の現場で働く人にとっても、労災は身近な制度です。

14. 労災と、ほかの制度との関係:傷病手当金とは、同じ休業で重ねて受け取れない

仕事中のケガや病気で会社を休むとき、健康保険の傷病手当金と、労災の休業補償給付の、どちらを使うかで迷う方がいます。同じ休業について、両方を重ねて受け取ることはできません。

労災と傷病手当金の違いは、対象、最初の3日間の扱い、金額、期間、請求先、時効の5つの観点で整理できます。30日休んだ場合の受け取り額の比較は、別の記事で試算しています(労災と傷病手当金の違い)。

労災の申請の流れや、必要な書類の様式、健康保険を使ってしまった場合の切り替え、精神障害の認定、通勤災害などは、個別の記事で整理しています。総論としては、この記事の内容が入口になります。

15. よくある質問

15.1 Q. アルバイトやパートでも、労災を使えますか?

労働者であれば、使えます。厚生労働省のページには、アルバイトやパートタイマーなどの雇用形態は関係ない、と書かれています。

15.2 Q. 労災の保険料は、自分で払いますか?

原則として、事業主が負担する保険料でまかなわれます(厚生労働省)。特別加入をした場合は、加入した本人が負担する仕組みです。

15.3 Q. 経営者や個人事業主は、労災を使えますか?

原則として、労働者ではないため対象外です。ただし、特別加入という仕組みがあり、一定の人は、任意で加入できます(労働者災害補償保険法第33条)。

15.4 Q. 会社を辞めたあとでも、請求できますか?

保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されません(第12条の5)。ただし、時効の期限は、別にあります。

15.5 Q. 受け取った給付に、税金はかかりますか?

条文には、保険給付として支給を受けた金品を標準として、租税その他の公課を課すことはできない、とあります(第12条の6)。

15.6 Q. 請求の期限は、いつまでですか?

療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付などは2年、障害補償給付と遺族補償給付などは5年です(第42条)。令和9年4月から、政令で定める疾病は、5年になります。

15.7 Q. 令和9年4月に、何が変わりますか?

遺族への定期給付の夫の要件の撤廃、遺族が1人の場合の年額の一律175日分、政令で定める疾病の時効の5年、特別加入団体の要件の法令化などです(厚生労働省)。

15.8 Q. 労災に当たるかどうかは、誰が決めますか?

個別の事情は、労働基準監督署が判断します。迷うときは、所轄の労働基準監督署に確認してください。

参考資料

齊藤 慧