失業保険(雇用保険の基本手当)は、「離職前の賃金の5割から8割」と説明されることがあります。ただ、実際にいくらもらえるのかは、月給をそのままかけて決まるわけではありません。
厚生労働省によると、基本手当日額は、賃金日額に応じた計算式で決まります。賃金日額が低いほど給付の率が高く、賃金日額が高くなると率が下がり、さらに年齢別の上限額で止まります。令和8年8月1日からは、この上限額が引き上げられました。
この記事では、厚生労働省とハローワークの公表資料(2026年10月時点)をもとに、失業保険の金額の決まり方を整理します。月給別の基本手当日額と総額を、編集部が試算します。実際の金額は、ハローワークが離職票などをもとに算定します。
1. 失業保険の金額は何で決まる:賃金日額、給付の率、給付日数の3つ
失業保険の総額は、大きく3つの要素で決まります。1つ目は、離職前の賃金から計算する「賃金日額」です。2つ目は、賃金日額に応じた給付の率で、これで1日当たりの「基本手当日額」が決まります。3つ目は、基本手当を受け取れる日数(所定給付日数)です。
総額の目安は、基本手当日額に所定給付日数をかけた額です。この計算は、失業の認定を受けた日数分が支給される前提の、編集部の整理です。実際には、待期や給付制限、就職した場合などで、受け取る額や時期が変わります。
ハローワークの「基本手当について」によると、賃金日額は、離職日の直前6か月に、毎月決まって支払われた賃金(賞与等を除く)の合計を、180で割った額です。基本手当日額は、この賃金日額のおよそ50%から80%(60歳から64歳は45%から80%)で、賃金の低い方ほど高い率になります。
つまり、月給が高い人ほど、もらえる日額の絶対額は大きくなりますが、月給に対する割合は小さくなります。次の章で、実際の計算式を確認します。
2. 基本手当日額の計算式(令和8年8月1日から):賃金が高いほど率が下がる
厚生労働省の「基本手当日額の計算式及び金額(令和8年8月1日から)」によると、基準日(受給資格に係る離職の日)に30歳以上45歳未満の人の計算式は、賃金日額(w)の区分で4つに分かれます。
賃金日額が3203円以上5480円未満の場合は、基本手当日額は賃金日額の0.8倍(80%)です。5480円以上1万3490円以下の場合は、0.8wから、0.3に(w−5480)÷(13490−5480)をかけた値に、さらにwをかけたものを引きます。
1万3490円を超え1万6540円以下の場合は、0.5倍(50%)です。1万6540円を超えると、上限の8270円になります。端数は、1円未満を切り捨てます。
30歳未満の人は、1万3490円を超え1万4900円以下で0.5倍、1万4900円を超えると上限の7450円です。45歳以上60歳未満の人は、1万3490円を超え1万8220円以下で0.5倍、1万8220円を超えると上限の9110円です。
60歳以上65歳未満の人は、計算式が異なります。賃金日額5480円以上1万2120円以下の区間で、係数が0.35になり、1万2120円を超え1万7400円以下で0.45倍、1万7400円を超えると上限の7830円です。この区間には、0.05w+(12120×0.4)との、いずれか低い方の額をとる規定もあります。
2.1 【基本手当日額の計算式(30歳以上45歳未満・令和8年8月1日から)】
前提条件:厚生労働省「基本手当日額の計算式及び金額(令和8年8月1日~)」による。基準日(受給資格に係る離職の日)に30歳以上45歳未満の人の式。端数は1円未満を切り捨てる。30歳未満・45歳以上の人は、上限の区分が異なる1/2
- 賃金日額3203円以上5480円未満:基本手当日額は、賃金日額の0.8倍(80%)です。
- 賃金日額5480円以上1万3490円以下:基本手当日額は、0.8w−0.3×(w−5480)÷(13490−5480)×wです。
- 賃金日額1万3490円超1万6540円以下:基本手当日額は、賃金日額の0.5倍(50%)です。
- 賃金日額1万6540円超:基本手当日額は、上限の8270円です。
3. 月給別の基本手当日額と総額:月給30万円なら日額6307円、90日分で56万7630円
計算式に、月給を当てはめてみます。編集部の仮定として、30歳以上45歳未満の人が、離職前6か月の間、賞与を除く、毎月同じ額の月給を受けていたとします。賃金日額は、月給の6か月分を180で割るので、月給÷30になります。
月給が15万円なら、賃金日額は5000円です。5000円は、3203円以上5480円未満の区分なので、基本手当日額は0.8倍の4000円です。給付の率は、80%そのままです。
月給が30万円なら、賃金日額は1万円です。5480円以上1万3490円以下の区分で、式に当てはめると、基本手当日額は6307円(1円未満切り捨て)です。賃金日額に対する率は、約63%まで下がります。
月給が45万円なら、賃金日額は1万5000円で、1万3490円を超えています。1万3490円超1万6540円以下の区分なので、0.5倍の7500円です。月給が60万円なら、賃金日額は2万円で、1万6540円を超えるため、上限の8270円になります。
総額の目安は、基本手当日額に、所定給付日数をかけて求めます。一般の離職者(自己都合などで離職した人)は、被保険者であった期間が10年未満なら90日、10年以上20年未満なら120日です。この日数は、ハローワークの「基本手当について」によります。
3.1 【月給別の基本手当日額と総額(30歳以上45歳未満・編集部試算)】
前提条件:30歳以上45歳未満で、離職前6か月に賞与を除く毎月同額の月給を受けていたと仮定した編集部試算。賃金日額=月給÷30。令和8年8月1日からの計算式で、端数は1円未満を切り捨て。総額は日額×所定給付日数(一般の離職者の90日、120日)で、支給の時期や待期、給付制限は考慮していない2/2
出所:厚生労働省「基本手当日額の計算式及び金額(令和8年8月1日~)」、ハローワークインターネットサービス「基本手当について」を基にLIMO編集部試算
- 月給15万円:賃金日額は5000円、基本手当日額は4000円です。90日分は36万円、120日分は48万円です。
- 月給18万円:賃金日額は6000円、基本手当日額は4683円です。90日分は42万1470円、120日分は56万1960円です。
- 月給21万円:賃金日額は7000円、基本手当日額は5201円です。90日分は46万8090円、120日分は62万4120円です。
- 月給24万円:賃金日額は8000円、基本手当日額は5644円です。90日分は50万7960円、120日分は67万7280円です。
- 月給30万円:賃金日額は1万円、基本手当日額は6307円です。90日分は56万7630円、120日分は75万6840円です。
- 月給36万円:賃金日額は1万2000円、基本手当日額は6669円です。90日分は60万210円、120日分は80万280円です。
- 月給45万円:賃金日額は1万5000円、基本手当日額は7500円です。90日分は67万5000円、120日分は90万円です。
- 月給60万円:賃金日額は2万円、基本手当日額は上限の8270円です。90日分は74万4300円、120日分は99万2400円です。
この試算では、月給が15万円から30万円へ2倍になっても、基本手当日額は4000円から6307円で、約1.6倍にとどまります。月給が60万円になると、日額は上限の8270円で止まり、15万円の約2.1倍です。月給の差ほどには、日額の差が開かないことが分かります。
4. 【編集者の視点】
月給別の試算を並べると、「月給の5割から8割」という説明の中身が、実感として見えてきます。月給15万円の人は、賃金日額に対して80%を受け取る一方で、月給30万円の人は、約63%です。
月給が高い人ほど、日額の絶対額は大きいのに、給付の率は下がります。さらに、月給60万円のように賃金日額が上限の区分に入ると、月給をいくら上げても、日額は変わりません。
これは、失業保険が、賃金の低い人に手厚く設計されていることを示しています。賃金の高い人は、失業中の生活費を、貯蓄などで補う計画も、あわせて考えておくことが大切です。
5. 令和8年8月1日から日額の上限が上がった:年齢別の上限額
基本手当日額の上限は、令和7年8月と令和8年8月に、続けて引き上げられました。ハローワークの資料によると、令和8年8月1日現在の上限は、30歳未満が7450円、30歳以上45歳未満が8270円、45歳以上60歳未満が9110円、60歳以上65歳未満が7830円です。
令和7年8月1日の上限は、30歳未満が7255円、30歳以上45歳未満が8055円、45歳以上60歳未満が8870円、60歳以上65歳未満が7623円でした。令和8年8月の引き上げ幅は、編集部の計算で、順に195円、215円、240円、207円です。
賃金日額が上限の区分に入る人は、この引き上げがそのまま日額に反映されます。たとえば、30歳以上45歳未満で、賃金日額が1万6540円を超える人は、日額が8055円から8270円へ、215円増えた計算です。
5.1 【基本手当日額の上限:令和7年8月と令和8年8月の比較】
- 30歳未満:令和7年8月は7255円、令和8年8月は7450円で、引き上げ幅は195円です。
- 30歳以上45歳未満:令和7年8月は8055円、令和8年8月は8270円で、引き上げ幅は215円です。
- 45歳以上60歳未満:令和7年8月は8870円、令和8年8月は9110円で、引き上げ幅は240円です。
- 60歳以上65歳未満:令和7年8月は7623円、令和8年8月は7830円で、引き上げ幅は207円です。
賃金日額が1万3490円のとき、30歳以上45歳未満の基本手当日額は、0.5倍の6745円です(編集部の計算)。
再就職手当の計算については、【令和8年8月改定】再就職手当の計算に使う日額上限は6745円に。支給残日数別に「もらえる額」を試算で紹介されています。
6. 総額を決めるもう1つの要素:所定給付日数と離職理由
基本手当日額が分かっても、何日分受け取れるかで、総額は大きく変わります。ハローワークの「基本手当について」によると、所定給付日数は、離職理由と、被保険者であった期間、年齢で決まります。
一般の離職者(自己都合などで離職した人)は、被保険者であった期間が1年以上10年未満なら90日、10年以上20年未満なら120日、20年以上なら150日です(※原則として受給には1年以上の被保険者期間が必要です)。
特定受給資格者(解雇などの会社都合の離職者)や、一部の特定理由離職者は、年齢によって日数が違います。たとえば、30歳以上35歳未満で、被保険者であった期間が5年以上10年未満なら180日、10年以上20年未満なら210日です。
先ほどの月給30万円(日額6307円)の人が、会社都合で、被保険者であった期間が5年以上10年未満・30歳以上35歳未満なら、所定給付日数は180日です。編集部の試算では、6307円に180日をかけた113万5260円が、総額の目安です。自己都合で90日の場合の56万7630円の、ちょうど2倍になります。
離職理由の判定は、受給資格の決定時に、ハローワークが行います。実際は事業主からの退職勧奨なのに、自己都合退職とされている場合などは、ハローワークに相談するよう案内されています。離職理由の違いが、総額に直結するため、離職票の記載は、よく確認してください。
離職理由別の総額の違いや、受給の条件については、【雇用保険の基本手当】離職前6か月の賃金の5〜8割が90日から360日分。自己都合の給付制限は2025年4月から1か月に短縮されたでも整理されています。
7. 離職前6か月の賃金が変わった場合:直前の月給が基準になる
賃金日額は、離職日の直前6か月の賃金で計算します。そのため、途中で給与が下がった場合は、下がったあとの月給が、金額に影響します。ここでも、編集部が試算してみます。
30歳以上45歳未満の人が、離職前6か月のうち、前半の3か月は月給30万円、後半の3か月は月給24万円だったとします。6か月の合計は162万円で、180で割った賃金日額は9000円です。
賃金日額9000円を、令和8年8月1日からの計算式に当てはめると、基本手当日額は6013円(1円未満切り捨て)です。月給30万円が6か月続いた場合の6307円より、294円低くなります。90日分で比べると、54万1170円と56万7630円で、2万6460円の差です。
この差は、月給が下がった分が、賃金日額の平均に反映された結果です。退職の時期を考えるときは、直近6か月の賃金がどう推移しているかも、金額に関わります。ただし、どのような賃金が「毎月決まって支払われた賃金」に含まれるかの細かな範囲は、本記事で確認した資料では、すべてを確認できていません。
残業代や通勤手当などの扱いは、ハローワークや離職票の記載で確認してください。賞与等は、賃金日額の計算に含まれません。
8. 4週間ごとの認定で受け取る額の目安:月給30万円なら約17万6596円
基本手当は、失業の認定を受けた日数分が、まとめて支給されます。ハローワークによると、失業の認定は、原則として4週間に1度です。4週間は28日です。
月給30万円で、基本手当日額が6307円の人が、4週間の認定対象期間の全日数分を受け取る場合は、6307円に28日をかけた17万6596円が、目安です(編集部試算)。月給30万円に対しては、約59%です。
この金額は、あくまで目安です。認定対象期間中にアルバイトなどをした場合や、待期・給付制限の期間が含まれる場合は、金額が変わります。認定を行った日から、通常5営業日で振り込まれます。
失業中の生活費は、基本手当だけで足りるとは限りません。月給30万円の人が、基本手当の約17万6596円で、4週間の生活費をまかなえるかは、家賃や家族構成によって違います。退職前に、半年から1年分の生活費を、貯蓄などで確保しておくと、気持ちにも余裕が生まれます。
9. 金額は「もらえる額」とは別:待期と給付制限、課税の扱い
基本手当は、受給資格の決定後すぐに、全額が支払われるわけではありません。ハローワークの「雇用保険の具体的な手続き」によると、求職の申込み後、失業の状態にある7日間は、待期として基本手当が支給されません。
正当な理由なく自己都合で退職した場合は、待期の満了後に、さらに給付制限があります。厚生労働省によると、退職日が令和7年4月1日以降の場合は、原則として1か月です。退職日から遡って5年間に2回以上、正当な理由なく自己都合退職をした場合は、3か月です。
失業の認定は、原則として4週間に1度で、認定を行った日から、通常5営業日で振り込まれます。認定の対象期間中には、原則として2回以上の求職活動実績が必要です。
課税の扱いも、確認しておきたいところです。国税庁の確定申告書等作成コーナーによると、雇用保険法に基づき支給される求職者給付は、失業等給付に当たり、課税されません。配偶者控除の判定の際の、合計所得金額に含める必要もありません。
なお、受給資格の条件(離職の日以前2年間に被保険者期間が通算12か月以上)や、手続きの流れは、別の記事で詳しく整理されています。4月から「失業保険」の自己都合退職の給付制限が1か月に!雇用保険の改正ポイントを解説 《Q&A》失業保険に関する疑問・質問も参考になります。
10. 【編集者の視点】
金額の計算を追ってみると、失業保険の「もらえる額」は、日額と日数、そして時期の3つが重なって決まることが分かります。日額は賃金日額で、日数は離職理由と被保険者期間で、時期は待期と給付制限で変わります。
特に、離職理由の違いは、総額に与える影響が大きい要素です。試算では、月給30万円の人が、同じ日額でも、90日なら56万7630円、180日なら113万5260円で、約2倍の差になります。
退職を決める前に、ご自身の離職理由が、どの区分に当たりそうかを、ハローワークに相談しておくことも、一つの方法です。決めつけず、事実に基づいて、窓口で確認してください。
11. まとめ
失業保険(基本手当)の金額は、賃金日額、給付の率、所定給付日数で決まります。賃金日額は、離職前6か月の賞与を除く賃金の合計を180で割った額です。
基本手当日額は、賃金日額が低いほど率が高く、高いほど率が下がり、年齢別の上限で止まります。令和8年8月1日からの上限は、30歳未満7450円、30歳以上45歳未満8270円、45歳以上60歳未満9110円、60歳以上65歳未満7830円です。
編集部の試算では、30歳以上45歳未満で月給30万円の人は、基本手当日額が6307円で、90日分は56万7630円、120日分は75万6840円です。実際の金額は、ハローワークが算定します。
12. よくある質問
12.1 Q. 失業保険は、いくらもらえますか?
基本手当日額に、所定給付日数をかけた額が目安です。日額は、賃金日額に応じた計算式で決まり、年齢別の上限があります。実際の金額は、ハローワークが算定します。
12.2 Q. 賃金日額は、どう計算しますか?
離職日の直前6か月に、毎月決まって支払われた賃金(賞与等を除く)の合計を、180で割った額です(ハローワーク)。
12.3 Q. 基本手当日額は、賃金の何割ですか?
賃金日額のおよそ50%から80%です。60歳から64歳は45%から80%です。賃金の低い方ほど高い率になります(ハローワーク)。
12.4 Q. 令和8年8月からの日額の上限は?
30歳未満が7450円、30歳以上45歳未満が8270円、45歳以上60歳未満が9110円、60歳以上65歳未満が7830円です(ハローワーク、令和8年8月1日現在)。
12.5 Q. 月給30万円の場合、日額はいくらですか?
編集部の試算で、30歳以上45歳未満なら6307円です。賃金日額を1万円(月給÷30)として、令和8年8月1日からの計算式に当てはめた額です。
12.6 Q. 自己都合の場合、何日分もらえますか?
被保険者であった期間が10年未満なら90日、10年以上20年未満なら120日、20年以上なら150日です(ハローワーク)。
12.7 Q. 失業保険に税金はかかりますか?
課税されません。配偶者控除の判定の際の合計所得金額にも含めません(国税庁の確定申告書等作成コーナー)。
12.8 Q. 待期と給付制限は、何日、何か月ですか?
待期は7日間です。自己都合の場合は、令和7年4月1日以降の退職で、原則として1か月の給付制限があります(ハローワーク、厚生労働省)。
参考資料
- 厚生労働省「基本手当日額の計算式及び金額(令和8年8月1日~)」
- ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
- ハローワークインターネットサービス「雇用保険の具体的な手続き」
- 国税庁確定申告書等作成コーナー「失業等給付の課税関係」
- 厚生労働省報道発表(令和7年7月22日)
齊藤 慧
