3. 数字が信じられないと、会社の値段が測れない

数字の信頼性が揺らぐと、投資家は会社の価値を測る物差しそのものを失います。泉田氏は、株価が1株あたりの純資産の何倍かを示すPBR(株価純資産倍率)を例に挙げます。PBRで評価するには株主資本がいくらなのかが大事なので、その数字がずれると株価の評価を誤ってしまう、というわけです。

「この数字が正しいっていうことが前提で物事進んでいくんで、それが違う可能性がありますよって言うと、正直分析難しい」

株価もこの不透明さを映してきました。2025年8月の高値(約3,300円)から、特別注意銘柄(内部管理体制などの改善の必要性が高いと東京証券取引所が判断した銘柄)に指定された後の2025年10月末には1,883円と、4割あまり下落しています。2回目の意見不表明が出た翌日の2026年10月1日にも、株価は前日比で約11%下がりました。株価がいまの水準で何を織り込んでいるのかは別稿で取り上げます。

ニデック(TSE:6594)2025年6月〜2026年10月初旬3/4

ニデック(TSE:6594)2025年6月〜2026年10月初旬

出所:TradingView(ニデック 6594 日足チャート)

4. ニデックに「残されているもの」とは

ガバナンスと数字の信頼性が大きく揺らぐ一方で、ニデックの事業そのものが持つ強みまで失われたわけではない、と二人は見ています。

泉田氏がまず挙げるのは、データセンター向けのハードディスク(HDD)です。ニデックはHDDを回すモーターを手がけており、泉田氏は「今のデータセンター銘柄とかでいくとど真ん中」と表現します。HDDの値段がどんどん上がっているという認識も示し、10年前と比べてもポジションがまったく違うと語ります。会社も2026年10月1日の会見資料で「データセンタの拡大が追い風」としており、2026年3月期のHDD用モーターの売上高は前期比9.8%増でした。

泉田氏はさらに、自動車のEV(電気自動車)化や、ロボットなどのフィジカルAIでもモーターが要ると指摘し、同社が張っている事業ドメイン(領域)は正しいと評価します。そのうえで次のように述べます。

「技術力もあるし、グローバルネットワークもあるし、ブランドもある。だから経営者が変わった時にもっとアップサイドがあるんじゃないかっていう風に思う人もいるよね」

ただし泉田氏は、永守氏がもういないので、創業者への期待が上乗せされた「永守プレミアム」はどこかで剥げるとも見ています。それでも、悪材料を出し切る「アク抜き」を終えた後に、技術力とブランドに支えられた事業が改めて評価される余地は残っていると考えられます。

ニデックで「壊れたもの」と「残るもの」4/4

ニデックで「壊れたもの」と「残るもの」

出所:ニデック「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年9月30日)、「再生に向けての変革」(2026年10月1日)を基にイズミダイズム作成

5. まとめ:投資家が今、見極めるべきポイント

2人が挙げる事業の強みはあるものの、ニデック株を取り巻く環境はまだ不透明です。木村氏は、個人投資家が今の段階で投資判断を下すことの難しさを次のように表現します。

「どっちに転ぶかわからないところにかけることしかできないじゃないですか」

木村氏は、上場廃止になるかどうかについて、自分だけが正しいと確信できる情報を他の人より早く得られる状況ではないと説明します。仮に上場廃止を免れても、基準を厳しくした後の利益の水準が確定するまでは、会社の本当の稼ぐ力は見えません。

ニデックが再び市場からの信頼を取り戻し、ターンアラウンド(事業再生)を果たすための条件は明確です。それは、正しい決算を外に出せること、すなわち監査法人から適正意見を取得することと、マネジメントの刷新を完了させることです。泉田氏は、そのプロセスへの期待を次のように語ります。

「マネジメント変える、決算としてちゃんと外に出せる正しいものを出すっていうプロセスを経てターンアラウンドするのが、この国にとってもハッピーかなっていう気はします」

次に見るところは、監査法人が意見を出せるかどうかです。2026年3月期の意見不表明の理由は、不正に関与した役職員への人事上の是正が一部終わっていないことでした。会社は10月中に監査意見の取得に向けた残課題を解消するとしています。この是正が済み、正しい決算が出て初めて、売上が伸びている事業がどれだけの利益を生むのかが確定します。逆に、まだ見つかっていない問題が出てくれば、その前提はまた崩れます。

参考資料

  • ニデック株式会社「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年9月30日)
  • ニデック株式会社「2026年3月期有価証券報告書に係る監査報告書の意見不表明及び、2026年3月期第3四半期決算短信のレビュー結論不表明並びに2026年3月期内部統制監査報告書の意見不表明に関するお知らせ」(2026年9月30日)
  • ニデック株式会社「第三者委員会の調査報告書を受けて」(2026年3月3日)
  • ニデック株式会社「有価証券報告書等に関する重要なお知らせ」(2025年9月26日)
  • ニデック株式会社「第三者委員会設置のお知らせ」(2025年9月3日)
  • 日本取引所グループ「特別注意銘柄の指定:ニデック(株)」(2025年10月27日)
  • ニデック株式会社「代表取締役、取締役の辞任および役職変更に関するお知らせ」(2025年12月19日)
  • ニデック株式会社「代表取締役社長執行役員の辞任および新社長執行役員等の選定に関するお知らせ」(2026年9月29日)
  • ニデック株式会社「再生に向けての変革(会見資料)」(2026年10月1日)
  • 東京証券取引所の株価(ニデック〔6594〕の日々の終値)
  • YouTubeチャンネル「イズミダイズム」

各資料の入手先: ニデック株式会社 IRライブラリ

※リンクは記事作成時点のものです。