3. 株式分割を積極的に行う会社の思惑
逆に、株式分割を積極的に行う会社にはどのような狙いがあるのでしょうか。泉田氏の説明からは、個人株主を増やす狙いが2つ見えてきます。
3.1 個人株主の「ファン化」がもたらす効果
1つ目は、個人株主を自社のファンにすることです。その典型例として泉田氏が挙げるのがカゴメです。泉田氏によれば、カゴメは株主にトマトの苗を配るなどの施策を行い、個人投資家をファン化することに長けています。
「個人投資家は、業績が悪くなっても『応援するぞ』って言って株を持ってるんですよ」
業績が悪くなれば普通は株が売られますが、ファンになった個人投資家は応援の意を込めて株を持ち続ける、と泉田氏は説明します。
「すると需給が緩まないから、株が高いところに留まるんですよ」
売りが出にくくなることで株価が下がりにくくなり、その結果、その企業のバリュエーション(利益などに比べた株価の評価)がいつも高くなる、と泉田氏は説明します。一般消費者との接点が多い会社ほど、この「ファン化」の作戦をとりやすいということになります。
3.2 持ち合い解消の受け皿としての個人株主
2つ目は、東京海上ホールディングスの例で泉田氏が推測する「持ち合い解消の受け皿」です。
泉田氏は東京海上ホールディングスの1対15分割について、金融機関や三菱グループの中で持ち合っている株(取引関係のある会社どうしが互いに持つ株)を解消すると、その分の株を誰かに持ってもらう必要が出てくる、と説明します。
一度に大量の株が市場に出てくるためです。
「一気に玉が出てきちゃうんで、株価を下げないためにもやっぱり、いろんな人に持ってもらった方が受け皿は広がるから、それを考えてのことなのかなと思っちゃうけど」
とくに財閥系では、その株を事業会社に持ってもらうことはもうできないため、個人投資家に持ってもらうしかないのではないか、そのために株を細かく分割し、投資の敷居を下げているのではないか、と泉田氏は推論しています。
4. 株式分割はPR作戦?ライブドアの事例
株式分割で注目を集めようとしたのではないか、と泉田氏が見る歴史的な事例があります。2004年2月にライブドアが実施した1対100分割です。
金融庁の資料によれば、ライブドアの株価はこの1対100分割を前に15日連続でストップ高(1日に上がってよい上限の値段まで上がること)を記録しました。泉田氏は、この大規模な分割がPR作戦として機能したのではないか、と見ています。
「例えば1対100分割で、毎日ニュースで報道されるわけですよ。それの広告宣伝費用って考えた時にどうですか?」
「ただ分割しただけなんですよ。で、ストップ高でしょ。別にそこ時点では悪い話全くないし、時価総額がどんどん上がっていくわけでしょ。目立つじゃないですか」
分割しただけで毎日のように報じられ、株価が上がって時価総額も大きく見えます。それを広告宣伝費に置き換えて考えれば、PR作戦としてはうまくできていたのではないか、というのが泉田氏の見立てです。インタビュワーも、良くも悪くもライブドアという名前が一気に浸透したと振り返っています。
ただし泉田氏は、株価を最後に決めるのは企業の実力(ファンダメンタルズ)だとも念を押しています。分割で集めた注目は、会社の価値そのものを変えるものではありません。
5. まとめ:株式分割のニュースをどう読むか
株式分割のニュースを見たとき、単に「株価が小さくなって買いやすくなる」という表面的な事象にとらわれるのではなく、その会社が個人株主を何のために増やしたいのかを見ることが重要です。
カゴメのように個人をファン化して売られにくい株主層を作りたいのか。あるいは、持ち合い解消で出てくる株式の受け皿を求めているのか。一方で、泉田氏の見立てどおり東証の100万円以上のリストにtoB企業が多く残っているのなら、そのこと自体が各社の株主に対する考え方や事業特性を表している可能性があります。
分割によって短期的な需給が変化し、一時的に株価が上がることはあっても、企業価値そのものが変わるわけではありません。投資判断に活かす際は、分割の有無を通じて企業の思惑を読み解き、その会社の長期的な企業価値(利益の積み重ね)を見極めることが求められます。
ただし、ここで紹介した分割する・しない理由は泉田氏の見立てです。泉田氏自身、分割しない理由については「会社がどう思っているかは知らない」と断り、東京海上の狙いについても「〜と思っちゃうけど」と推測であることを示しています。個別の会社の狙いは、その会社が分割を発表したときの開示で確かめる必要があります。また、分割の前後で株価がどう動くかはこの記事では扱っていません。
参考資料
- 株式会社東京証券取引所「投資単位の引下げに係るご検討のお願い」(2026年7月28日)
- 金融庁「ライブドアに関して報道されている問題点と証券会社に期待される役割」(2006年3月)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
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