3. 家事・育児時間は夫1時間54分、妻7時間28分
共働き世帯が増えたとはいえ、家庭内のタスク分担には依然として大きな偏りがあります。令和7年版「厚生労働白書・日本の1日」の調査では、6歳未満の子どもがいる家庭において、夫の家事・育児時間が1日平均「1時間54分」であるのに対し、妻は「7時間28分」。
妻が夫の約4倍もの時間を家庭に割いているという現実は、女性がキャリアを維持し、将来の年金額を増やす(=厚生年金に長く加入する)上での大きな障壁となっています。年金制度の議論だけでなく、こうした「家庭内の働き方改革」が進まない限り、女性の老後資金格差を埋めるのは容易ではないでしょう。
4. 2025年6月に成立した年金制度改正。短時間で働く人の厚生年金加入が広がる
ここまで見てきた男女差は、これまでの働き方が積み重なった結果です。その働き方を形づくっている制度のほうも、いま動いています。
2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が参議院本会議で可決され、成立しました。
働き方や家族のあり方、ライフスタイルが多様になったことを踏まえ、年金制度を組み替えるという内容です。
あわせて、私的年金制度の拡充や所得再分配の強化を通じて、高齢期の生活の安定につなげることも目的に掲げられています。
どこが変わるのか、全体像を確認しておきましょう。
4.1 改正の柱は5つ。加入対象の拡大から遺族年金の見直しまで
社会保険の加入対象の拡大
- 中小企業において短時間で働く人などが、厚生年金や健康保険に加入し、年金増額などのメリットを受けられるようにする
在職老齢年金の見直し
- 年金を受け取りながら働くシニアが、年金を減額されにくくなり、より多く働けるようにする
遺族年金の見直し
- 遺族厚生年金の男女差を解消。子どもが遺族基礎年金を受給しやすくする
保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ
- 月収が一定以上となる人が、賃金に応じた年金保険料を負担し、現役時代の賃金に見合った年金を受給しやすくする
その他の見直し
- 子どもの加算などの見直し、脱退一時金の見直し
- 私的年金の見直し:iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)加入年齢の上限引き上げなど
こうして並べてみると、公的年金が老後に受け取る金額だけの話ではないことが分かります。
現役時代にどう働くか、どんなキャリアを選ぶかという判断と、そのまま結びついている制度だといえます。
5. まとめにかえて
今回は、厚生年金の受給額分布と、その背景にある女性の就業構造を確認してきました。
月額30万円以上を受け取っているのは全体の0.12%で、女性は482人。第3号被保険者は約641万人、うち女性は約628万人で前年比6.7%減と5年連続で減少しています。第1子出産後も仕事を続ける女性は53.8%まで増えました。
ただし、続けられても非正規雇用を選ぶケースは依然として多く、6歳未満の子がいる家庭では家事・育児時間が夫1時間54分に対し妻7時間28分と約4倍の開きがあります。この状態が続く限り、厚生年金の加入期間と報酬の差は残り続けます。
なお、2025年6月には年金制度改正法が成立しました。中小企業で短時間働く人への社会保険の加入対象の拡大、在職老齢年金や遺族年金の見直し、iDeCoの加入年齢の上限引き上げなどが柱です。厚生年金に加入して働ける範囲は、これから広がっていきます。
働き方の選択は、目の前の手取り収入の増減だけで判断してはいけません。
厚生年金に加入して働く期間が長くなれば、一生涯受け取れる将来の年金受給額を確実に底上げできます。
まずはご夫婦それぞれの「ねんきん定期便」を確認し、世帯全体で受け取れる年金の合計額を把握することから始めましょう。
そのうえで「ねんきんネット」を活用し、どちらかが働き方を変えた場合に将来の受給額がどう変動するかを具体的にシミュレーションしてみるのが効果的です。
数字を並べて比較・可視化できれば、目先の損得にとらわれず、迷わずに将来の安心を見据えた納得のいく選択をすることができます。
老後の不足を埋める手段としては、NISAやiDeCoといった税制優遇制度の活用、家計の見直し、勤務時間や雇用形態の見直しによる厚生年金加入期間の確保などが挙げられます。
まずはご夫婦それぞれの見込額を確かめるところから始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
- 厚生労働省「令和7年版厚生労働白書・第2部-第1章 働き方改革の推進などを通じた労働環境の整備など」
- 厚生労働省「令和7年版厚生労働白書・日本の1日」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
- 政府広報オンライン「年金の手続。国民年金の第3号被保険者のかたへ。」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
中島 卓哉
