3. 繰下げ受給のメリットは、増えた年金が生涯続くこと

ここからは、繰下げ受給を選ぶかどうかを考えるうえでの材料を確認します。

繰下げ受給の最大のメリットは、年金額が増えることです。

老齢基礎年金は保険料を納めた月数に応じて、老齢厚生年金は加入月数と納めた保険料の額に応じて年金額が決まります。

受給が始まったあとから年金そのものを増やす手段は限られますが、繰下げを選べば、増額された年金が生涯にわたって続きます。

令和7年簡易生命表によると、65歳の平均余命は男性が19.68年、女性が24.52年です。

65歳以降の期間が20年前後に及ぶことを考えると、毎月の年金が増える意味は小さくありません。

4. 繰下げ受給で知っておきたいデメリットは3つある

一方で、繰下げ受給には注意したい点もあります。

4.1 受け取り始めてから約11年11か月で本来受給に追いつく

繰下げをすると、待っている間は年金を受け取れません。

1か月あたりの増額率が0.7%なので、受け取らなかった分を増額分で取り戻すには、単純計算で1÷0.007=約142.9か月、つまり約11年11か月かかります。

この年数は繰り下げた期間の長さに関係なく同じで、75歳から受け取り始めた場合は87歳前後が目安になります。

令和7年簡易生命表では、75歳の平均余命は男性が12.24年、女性が15.88年です。

平均で見れば追いつく計算になりますが、男性の場合は余裕が大きいとはいえません。

4.2 額面が増えると所得税や社会保険料の負担も増える

年金額が増えると、所得税や住民税、社会保険料の負担も増えることがあります。

額面が84%増えても、手取りが同じだけ増えるとは限りません。

年金からどのようなお金が差し引かれるのかについては、LIMOの記事「【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説」から要点を引用して確認しておきましょう。

年金額が一定以上(65歳以上で年額18万円以上など)の場合、以下の項目が年金から直接天引き(特別徴収)されます。これにより、手取り額は額面の約80%〜85%に目減りします。

出所:【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説

繰下げを考えるときは、額面だけでなく手取りでどう変わるかを確かめておきたいところです。

4.3 繰下げ待機期間中は加給年金額と振替加算を受け取れない

厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方が65歳になったとき、生計を維持されている配偶者や子がいると、加給年金額が加算されます。

日本年金機構によると、令和8年4月からの加給年金額は配偶者が24万3800円、1人目・2人目の子が各24万3800円、3人目以降の子が各8万1300円です。

配偶者については生年月日に応じた特別加算があり、昭和18年4月2日以後に生まれた方の場合は特別加算17万9900円を含めて42万3700円になります。

ここで注意したいのが、加給年金額や振替加算は増額の対象にならず、繰下げ待機期間中は受け取れないという点です。

加給年金額を受け取れる方の場合、老齢厚生年金は繰り下げずに受け取り、老齢基礎年金だけを繰り下げるという選び方もあります。

このほか、在職老齢年金によって支給停止される額は増額の対象になりません。

繰下げによる増額分が遺族厚生年金に反映されない点も、日本年金機構が注意事項として挙げています。

5. 繰下げ受給を決める前に、加給年金額と待機中の生活費を確かめる

繰下げ受給を選んでいるのは、令和6年度末現在で老齢厚生年金の1.9%、70歳時点でも4.2%でした。

増額率だけを見れば有利に思える制度ですが、待っている間の生活費をどうするか、加給年金額の対象になるかどうかで答えは変わります。

まずは、ねんきん定期便やねんきんネットで自分の年金見込額を確かめるところからです。

そのうえで、老齢基礎年金と老齢厚生年金を分けて考えられることを思い出していただければと思います。

判断に迷うときは、年金事務所や街角の年金相談センターで、自分の加入記録にもとづいた試算を依頼できます。

参考資料

和田 直子