ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ。多くの人は同社を「世界的な投資会社」と認識し、四半期ごとに公表される保有銘柄のリストを真似ようとします。しかし、彼らの実態は巨大な保険・インフラ企業であり、本当に価値を見出した事業は株式市場から姿を消してしまいます。一体なぜ、上場株への投資だけで終わらず、企業を丸ごと買い取る仕組みでこれほど安定して稼ぎ続けられるのでしょうか。この秘密について、元機関投資家の泉田良輔氏がバークシャー・ハサウェイの事業構造と財務体質を分析し、業績好調の本当の理由を解説します。

1. 投資会社ではなく「巨大な保険グループ」

バークシャー・ハサウェイという企業を理解する上で、まず注目したいのが同社の公式サイトです。米国を代表する時価総額の大きな企業でありながら、そのトップページは昔から変わらず、文字だけの非常にシンプルな作りになっています。しかし、そこには年次報告書(アニュアルレポート)や、バフェット氏が直接株主に向けて書いた「株主への手紙」など、投資哲学を知る上で重要な情報が、会社自身の言葉で掲載されています。

多くの人は、バークシャー・ハサウェイを単なる投資会社だと考えています。インタビュワーが同社の保有銘柄を真似れば勝てるのではないかと問いかけると、泉田氏はこの見方を明確に更新します。実は、同社の本業は損害保険や再保険(保険会社のための保険)を扱う巨大な保険グループなのです。

保険というビジネスモデルの強みは、顧客から定期的に保険料が入ってくることにあります。大数の法則(対象の数が多くなるほど、事故や死亡の発生率が平均値に近づくという考え方)により、生命保険の死亡保険金や損害保険の事故対応などで、一斉に大量の資金を払い出さなければならない事態はほとんど起こりません。

「保険会社って毎回保険料が入ってくるじゃないですか。その人たちのお金を運用するのに、上場株の投資をしたりとか、あとはちゃんとキャッシュフローがある会社を丸ごと買ったりとかして大きくなっているコングロマリットなんですよ」

コングロマリットとは、異なる業種の事業を幅広く抱える企業グループのことです。

つまり、手元に滞留している多額の保険料を原資として運用に回せる構造こそが、バークシャー・ハサウェイの強さの源泉だと言えます。

2. 13F(保有銘柄報告)には載らない「バフェット帝国」の真の姿

米国の株式市場には「13F」という制度があります。これは、一定規模以上の資産を持つ機関投資家が、四半期ごとに米国証券取引委員会(SEC)へ提出する保有銘柄の報告書です。この報告書を見れば、バークシャー・ハサウェイがどの上場株を買い増し、あるいは売却したのかが分かります。

しかし、泉田氏は、13Fに載っている上場株のリストは、バークシャー・ハサウェイの資産全体の一部にすぎないと指摘します。

「バークシャー・ハサウェイ全体で見た時に、良い会社だと思ったら全部買っちゃうから開示もされないんですよ」

上場株の一部を保有しているだけでは、得られるのは持分に応じた配当と株価の値上がり益のみです。しかし、魅力的なキャッシュフロー(事業から継続的に入ってくる現金)を生み出す企業であれば、株式をすべて買い取って完全子会社化する方が合理的です。

「いい会社だったら買っちゃうんですよ。株式全部を買うと、自分が100%株主になって、出てくる最終利益全部自分たちで連結で享受できるじゃないですか」

「連結」とは、子会社の売上や利益を親会社の決算にまとめて計上することです。株式の一部だけを持つ場合は配当しか受け取れませんが、すべて買い取れば、その会社が稼いだ利益はグループ全体の利益として取り込めます。

バークシャーの事業構造1/3

バークシャーの事業構造

出所:記事本文の解説を基にイズミダイズム作成

実際に、バークシャー・ハサウェイの傘下には、BNSFという巨大な鉄道会社や、バークシャー・ハサウェイ・エナジー(旧ミッドアメリカン)という電力会社など、生活に根ざした強固なインフラ企業が多数存在しています。これらは未上場化されているため13Fのリストには登場せず、同社のバランスシート(貸借対照表)と損益計算書に直接組み込まれています。投資会社というよりも、独自の経済圏を持つ「帝国」と呼ぶ方が実態に近いと考えられます。

3. 投資基準は「妥当な価格で理解しやすい事業」

では、彼らはどのような基準で投資先や買収先を選んでいるのでしょうか。泉田氏は、バフェット氏が過去の株主への手紙などで示してきたという投資基準を紹介します。

根底にあるのは、「妥当な価格で理解しやすい事業」の一部、あるいは全部を買うという方針です。5年後、10年後、20年後に利益が確実に増えていると見通せる事業を好みます。バフェット氏はマイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏と親交がありましたが、マイクロソフトの株は買いませんでした。それは、自身の専門外であり事業が理解できないと判断したためだとされています。実際、過去53四半期の13Fの記録を確認しても、マイクロソフトの保有記録は1件もありません。

また、他社が真似できない「モート(経済的なお堀=参入障壁)」を持っているかどうかも重要な基準です。泉田氏は、バークシャー・ハサウェイの傘下にある自動車保険会社「GEICO(ガイコ)」を例に挙げます。

「他社が真似できないコストの低さというのがあったんですよ」

泉田氏は、GEICOの経費率(保険料に対する事業運営コストの比率)が23.6%で、競合他社と比べて低い水準にあったと説明します。このコストの低さが、他社には真似できないお堀として働いていたという見方です。ビジネスモデルやブランド力など、企業ごとにモートの形は異なりますが、この強みを見極めることが投資の鍵となります。

一度買った銘柄は長く持ち続けるのも特徴です。13Fのデータを見ると、コカ・コーラとアメリカン・エキスプレスの株数は、過去53四半期(約13年間)にわたって全く動いていません。その間、コカ・コーラの評価額は約2倍に、アメリカン・エキスプレスの評価額は約4.5倍にまで成長しています。

長期保有銘柄の評価額成長2/3

長期保有銘柄の評価額成長

出所:13F 情報テーブル保有スナップショット(2013Q2-2026Q2)を基にイズミダイズム作成