朝夕の風に秋の気配を感じるようになり、落ち着いて将来の暮らしや家計について考える時間が増えたという方も多いのではないでしょうか。特に「おひとりさま」での老後生活を想像したとき、年金だけで日々の暮らしを賄えるのか、貯蓄はどれくらい必要なのかは気になるポイントです。
総務省の最新データによると、65歳以上の単身無職世帯では毎月約3万円の不足が生じていることが分かっています。2026年4月からの年額引き上げの一方で、現役時代の働き方による大きな「年金格差」や、世間でよく見かける「平均貯蓄額」の意外な落とし穴も浮かび上がってきました。本記事では、おひとりさまの老後家計のリアルな収支と、今から確認しておきたい年金・資産のポイントを詳しく解説します。
1. 【家計収支】65歳以上のおひとりさま無職世帯は、毎月2万9980円が足りていない
総務省統計局の家計調査報告によると、2025年(令和7年)平均で、世帯主が65歳以上の単身無職世帯はひと月あたり2万9980円の不足でした。まずは収入と支出の内訳から見ていきます。
1.1 実収入13万1456円に対し、支出は16万1435円かかっている
実収入は13万1456円です。ここから税金や社会保険料などの非消費支出1万2990円を差し引くと、自由に使える可処分所得は11万8466円になります。
一方で消費支出は14万8445円です。非消費支出と合わせた支出は16万1435円で、実収入との差が2万9980円の不足になります。
1.2 足りない分は貯蓄から取り崩すことになる
年金収入だけでは支出をまかなえない場合、その差は手元の資産から埋めることになります。ひと月3万円弱でも、1年では約36万円、10年では約360万円の取り崩しになります。
平均消費性向は125.3%でした。可処分所得を100とすると、消費支出が125に達しているという意味です。エンゲル係数は28.6%で、消費支出のうち3割近くが食料費に充てられています。
2. 【年金】2026年4月分から年金額は引き上げ(基礎年金1.9%・厚生年金2.0%)
収入側の年金は、2026年度に改定されています。厚生労働省が公表した令和8年度の年金額です。
2.1 老齢基礎年金の満額は月7万608円になった
老齢基礎年金の満額は1人分で月額7万608円です。令和7年度の6万9308円から1.9%の引き上げになります。
昭和31年4月1日以前に生まれた方は月額7万408円です。生年月日によって満額の水準が2つに分かれる点に注意が必要です。
2.2 厚生年金の標準的な年金額は月23万7279円になった
厚生年金の標準的な年金額は、夫婦2人分の老齢基礎年金を含めて月額23万7279円です。令和7年度の23万2784円から引き上げられました。
ただしこれは夫婦2人の世帯を想定した金額です。おひとりさま世帯にそのまま当てはまる数字ではありません。
3. 【年金】同じおひとりさまでも、年金額には9万8544円の差がある
厚生労働省は年金額の公表にあわせて、働き方の違いによる年金額の例も示しています。ここが不足額を左右します。
3.1 厚生年金の期間が長い場合は月17万6793円になる
厚生年金の加入期間が中心だった男性の例では、令和8年度の年金月額が17万6793円です。前提となる平均の厚生年金期間は39.8年、平均収入は賞与を含む月額換算で50万9000円です。
令和7年度の同じ例は17万3457円で、基礎年金(1.9%引き上げ)と厚生年金(2.0%引き上げ)の改定に伴い、全体として増額されています。
3.2 国民年金の第3号被保険者期間が中心の場合は月7万8249円にとどまる
一方、国民年金の第3号被保険者期間が中心だった女性の例では、年金月額は7万8249円です。内訳は基礎年金が6万9016円、厚生年金が9234円で、平均の厚生年金期間は6.7年、平均収入は26万3000円という前提です。
2つの例の差は9万8544円です。先に見た不足額が2万9980円だったことを踏まえると、年金額がこれだけ違えば家計の姿もまったく変わります。

統計の平均不足額「約3万円」や二人以上世帯の「平均貯蓄2000万円」といった数字は、あくまで社会全体の傾向を示す一つの目安に過ぎません。実際には、現役時代の働き方によって年金額に9万円以上の開きが生じるように、老後のマネープランは世帯ごとに大きく異なります。
老後の安心を得るための第一歩は、「ねんきん定期便」で年金額の見込みを確かめ、そこから税金や社会保険料などの非消費支出を差し引いた「本当の可処分所得(手取り額)」を把握することです。その上で、日々の生活費とのギャップを確認できれば、貯蓄の具体的な取り崩しペースが見えてきます。不足額が見えても、固定費の見直しや自治体の軽減制度の活用など、準備できる手立てはいくつもあります。平均値に一喜一憂せず、まずはご自身の「実際の可処分所得」を算出することから始めてみてください。