9月は、翌年の年金から引かれる所得税を左右する「扶養親族等申告書」が届く月にあたります。お子さんやお孫さんへまとまった額を渡しておきたい、というお気持ちがこの時期に強まる方もいらっしゃいます。ただ、渡せる額の見当をつけるときに使われているのは、たいてい年金の額面のほうです。実際に口座へ入るのは税や社会保険料が引かれたあとの額で、渡す分もそこから出ていきます。ここでは60歳から89歳までの平均年金月額を1歳刻みで確かめ、そのうえで年110万円を年金から渡したときに手元へいくら残るのかをみていきます。

橋本 優理
渡す額を先に決めてから残りで暮らそうとすると、途中で続かなくなります。順番を入れ替えて、手元に入る額で1年の暮らしが回ることを確かめ、そのうえで余る部分から渡す分を考えていく。実務でご相談を受けていて感じるのは、この順番を守れた方ほど、あとから渡す額を減らさずに済んでいるということです。

なお、60歳から89歳までの平均年金月額と年金からの天引きに関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【2026年最新】60歳~89歳の年金一覧表!年代別の平均受給額と「手取り・非課税世帯」のリアル!年金口座の「凍結リスク」とは?
【2026年最新】60歳~89歳の年金一覧表!年代別の平均受給額と「手取り・非課税世帯」のリアル!年金口座の「凍結リスク」とは?

1. 2026年度の改定で、国民年金と厚生年金は6月支給分からどれだけ上がったのか

公的年金の額は、賃金や物価の動きを織り込んで毎年度見直されます。2026年度は、国民年金にあたる基礎年金が前年度と比べて1.9%、厚生年金の報酬比例部分が2.0%の増額と決まりました。

この改定率が実際の振込に乗るのは2026年6月からで、4月分と5月分がその対象です。改定後の額を知らせる通知書も、6月の支給に合わせて日本年金機構から届きます。

1歳刻みの平均額と天引きの仕組みをひととおり見比べたい方は、【2026年最新】60歳~89歳の年金一覧表!年代別の平均受給額と「手取り・非課税世帯」のリアル!年金口座の「凍結リスク」とは?を参考にご覧ください。

1.1 【2026年度】満額の国民年金と、モデル夫婦世帯の厚生年金はいくらと示されたのか

令和8年4月分(6月15日(月曜)支払分)からの年金額1/9

令和8年4月分(6月15日(月曜)支払分)からの年金額

出所:日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」

2026年度に示された国民年金・厚生年金の支給額の例

  • 国民年金(老齢基礎年金・満額・1人分)(※1):月額7万608円
  • 厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む)(※2):月額23万7279円

※1:昭和31年4月1日以前に生まれた方の老齢基礎年金(満額)は月額7万408円(前年度比+1300円)です。
※2:厚生年金のモデルケースは、平均的な収入(平均標準報酬45万5000円)を得ていた夫が40年間就業し、その配偶者が国民年金を満額受給する場合の世帯の給付水準(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金)です。

1.2 6月に届く2つの通知書は、それぞれどこを見るための書類なのか

すでに年金を受け取っている方の手元には、毎年6月に日本年金機構から2種類の通知書が届きます。「年金額改定通知書」と「年金振込通知書」です。名前が似ているため同じものと思われがちですが、書かれている内容は別です。

前者に載っているのは、その年度(4月分以降)に改定された年金の額です。増えたか減ったかを確かめるのはこちらになります。

後者には、年金から差し引かれる税や社会保険料の内訳と、差し引いたあとに口座へ振り込まれる額が並んでいます。渡せる額を考えるときに見るのは、こちらの数字です。

1.3 「年金振込通知書」では、差し引かれているものがどう並んでいるのか

「年金振込通知書」2/9

「年金振込通知書」

出所:日本年金機構「年金振込通知書」

老齢年金から差し引かれる税と社会保険料の項目

  • 介護保険料
  • 公的医療保険料(国民健康保険または後期高齢者医療制度)
  • 個人住民税・森林環境税
  • 所得税・復興特別所得税

受け取る年金が一定の水準を超えると、働いていたころと同じように、介護保険料や医療保険料、住民税、所得税が年金から差し引かれる形になります(※)

「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」に出てくるのは、これらが引かれる前の額面です。振り込まれる額はそれより少なくなるため、渡す分をここから出すつもりで組み立てると、見込みが狂います。

※年間の受給額が18万円未満である場合など、条件によっては年金からの天引きが行われないケースもあります。

1.4 仮徴収(4・6・8月)と本徴収(10・12・2月)で、差し引かれる額が動くのはどういう仕組みなのか

年金から引かれるもののうち、住民税や介護保険料などは、その年度の額が6月に確定します。確定する前の4月・6月・8月は前年度の情報をもとにした仮の額で引かれ、確定後の10月・12月・2月で年間の額に合わせた調整が入ります。

前半を仮徴収、後半を本徴収と呼びます。この2つの期間で引かれる額が違うため、同じ年度のなかでも振り込まれる額が一定にならないことがあります。1年分をならして考えないと、渡せる額の見込みが月によってぶれます。

橋本 優理
渡す時期を年末に寄せている方は多いのですが、通知書を見ずに額を決めていると、その月がたまたま引かれる額の大きい月だった、ということが起こります。まずは1年分の振込額を足して12で割り、ならした額を出しておいてください。月ごとの多い少ないに引きずられずに済みます。

2. 60歳代の平均年金月額は、1歳刻みでみるとどう並んでいるのか

ここからは、いま実際に受け取られている老齢年金の平均額を年齢ごとにたどっていきます。厚生年金と国民年金のそれぞれについて、1歳刻みの平均月額を並べます。

ここで示す厚生年金の月額は、基礎年金である国民年金の分を含んだ金額です。上乗せ部分だけの数字ではない点に気をつけてご覧ください。

2.1 厚生年金:60歳代の各年齢で、平均月額はどこまで動くのか

60歳代の厚生年金額3/9

60歳代の厚生年金額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

  • 60歳:9万9664円
  • 61歳:10万4455円
  • 62歳:10万9323円
  • 63歳:6万8758円
  • 64歳:8万3901円
  • 65歳:14万9862円
  • 66歳:15万2378円
  • 67歳:15万2356円
  • 68歳:15万2709円
  • 69歳:15万1284円

2.2 国民年金:60歳代の各年齢で、平均月額はどのあたりに集まるのか

60歳代の国民年金額4/9

60歳代の国民年金額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

  • 60歳:4万5186円
  • 61歳:4万6371円
  • 62歳:4万7784円
  • 63歳:4万7258円
  • 64歳:4万7896円
  • 65歳:6万1240円
  • 66歳:6万1369円
  • 67歳:6万1345円
  • 68歳:6万1293円
  • 69歳:6万978円

65歳から69歳までの平均をならしてみると、厚生年金は14万円台から15万円台、国民年金は6万円台という並びになります。

64歳までの数字がそれより低く出ているのは、繰上げ受給(※1)を選んだ方や、特別支給の老齢厚生年金(※2)の報酬比例部分だけを受け取っている方が、この平均のなかに混ざっているためです。年齢が上がると増えていく、という読み方をしないよう気をつけたいところです。

※1 繰上げ受給:老齢年金を60歳から64歳の間に前倒しで受給する制度です。繰上げた月数に応じて年金額が1カ月あたり0.4%減額され、その減額率は生涯適用されます。
※2 特別支給の老齢厚生年金:厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳へ引き上げられたことに伴う経過措置です。生年月日などの一定条件を満たす場合に、65歳になる前から受給できます。

3. 70歳代の平均年金月額は、60歳代の水準からどう動いているのか

続いて70歳代です。ここも1歳ずつ並べて、どのあたりで上下しているのかを確かめます。

3.1 厚生年金:70歳代の各年齢では、どの幅に収まっているのか

70歳代の厚生年金額5/9

70歳代の厚生年金額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

  • 70歳:15万455円
  • 71歳:14万8371円
  • 72歳:14万6858円
  • 73歳:14万5583円
  • 74歳:14万7774円
  • 75歳:15万1410円
  • 76歳:15万1241円
  • 77歳:15万962円
  • 78歳:15万862円
  • 79歳:15万3115円

3.2 国民年金:70歳代の各年齢では、どこまで下がっていくのか

70歳代の国民年金額6/9

70歳代の国民年金額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

  • 70歳:6万1011円
  • 71歳:6万770円
  • 72歳:6万234円
  • 73歳:6万32円
  • 74歳:5万9813円
  • 75歳:5万9659円
  • 76歳:5万9555円
  • 77歳:5万9349円
  • 78歳:5万9124円
  • 79歳:5万8676円

70歳代でならすと、厚生年金は14万円台から15万円台、国民年金は5万円台から6万円台に収まっています。厚生年金のほうは60歳代の後半とほぼ同じ幅にとどまり、国民年金のほうは年齢が上がるにつれてゆるやかに下がっていく形です。

橋本 優理
一覧表を見るときは、自分と同じ年齢の欄だけを探して終わりにせず、10年先の欄まで指でたどってみてください。年金の額面はこの先も大きくは動かないという前提で見ていただくと、渡す分を毎年続けられるのか、何年で区切るのかという話に進めます。

4. 80歳代の平均年金月額は、どの水準にとどまっているのか

最後に80歳代です。厚生年金と国民年金で、動く向きが分かれます。

4.1 厚生年金:80歳代の各年齢では、どこまで上がっていくのか

80歳代の厚生年金額7/9

80歳代の厚生年金額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

  • 80歳:15万3729円
  • 81歳:15万5460円
  • 82歳:15万7744円
  • 83歳:15万9994円
  • 84歳:16万2555円
  • 85歳:16万3947円
  • 86歳:16万5577円
  • 87歳:16万5557円
  • 88歳:16万6200円
  • 89歳:16万6767円

4.2 国民年金:80歳代の各年齢では、どのあたりで落ち着くのか

80歳代の国民年金額8/9

80歳代の国民年金額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

  • 80歳:5万8623円
  • 81歳:5万8269円
  • 82歳:5万8003円
  • 83歳:5万7857円
  • 84歳:5万9675円
  • 85歳:5万9425円
  • 86歳:5万9228円
  • 87歳:5万9204円
  • 88歳:5万8756円
  • 89歳:5万8572円

80歳代でみると、厚生年金は15万円台から16万円台へ少しずつ上がり、国民年金は5万7000円台から5万9000円台のあいだで動いています。厚生年金のほうが高く出ているのは、現役時代の報酬に応じて上乗せされる仕組みが、その世代の働き方をそのまま映しているためです。

ただし、ここに並んでいるのはいずれも各年齢の平均です。実際に受け取る額は、加入していた期間や納めた保険料の記録によって一人ひとり違います。同じ年齢の欄にある数字が、そのままご自身の額になるわけではありません。

5. 住民税が課されている世帯の割合は、年代が上がるとどこまで下がるのか

年金の額面と天引きを見たあとで、もう一段関わってくるのが住民税です。厚生労働省の『令和6年国民生活基礎調査』から、年代ごとに住民税が課されている世帯の割合を確かめます。

【一覧表】住民税課税世帯の年代別割合9/9

【一覧表】住民税課税世帯の年代別割合

出所:厚生労働省「令和6年国民生活基礎調査」(第131表)をもとにLIMO編集部作成

  • 30〜39歳:87.5%
  • 40~49歳:88.2%
  • 50~59歳:87.3%
  • 60~69歳:79.8%
  • 70~79歳:61.3%
  • 80歳以上:52.4%
  • 65歳以上(再掲):61.1%
  • 75歳以上(再掲):54.4%

※全世帯数には、非課税世帯及び課税の有無不詳の世帯が含まれます。
※総数には、年齢不詳の世帯が含まれます。
※住民税課税世帯には、住民税額不詳の世帯が含まれます。

住民税が課される世帯の割合は、年代によってはっきり差がついています。30歳代から50歳代までは9割前後で並んでいるのに対し、60歳代では79.8%、65歳以上では61.1%、75歳以上では54.4%と、年齢が上がるほど下がっていく形です。

裏を返せば、年齢が上がるにつれて住民税の課されない世帯が増えているということでもあります。渡す額を増やすかどうかを考えるとき、この線をまたぐかどうかは無関係ではありません。

5.1 住民税が課されない世帯になると、医療と介護の負担はどこが軽くなるのか

住民税の課されない世帯として扱われると、次のような支援を受けられることがあります。

  • 医療費が高額になったときの自己負担の上限が、月あたりで低く設定される
  • 年金から差し引かれる介護保険料の段階が下がり、負担が軽くなる
  • 介護サービスを使ったときの月あたりの負担の上限も、低い側に置かれる
  • 物価対策などで配られる一時的な給付金の対象に入りやすくなる

このように、保険料や医療・介護にかかる費用を軽くする仕組みがひととおり用意されています。

ただし、対象になる条件も、どれだけ軽くなるかも、世帯の人数や所得の水準、その時々の制度の見直しによって細かく分かれます。ご自身の収入と受け取る年金の額を並べたうえで、お住まいの市区町村の窓口で中身を確かめていただくのが確実です。

橋本 優理
お子さんやお孫さんへ渡す話になると、税金の話は渡す側にかかるものだけに目が向きがちです。けれども、ご自身の世帯がどちら側にいるのかで、医療費や介護費の上限まで変わってきます。渡す額を決める前に、いまの世帯がどの区分にいるのかを課税証明書で確かめておいていただくと、比べるものがそろいます。

6. 2026年8月から届き始めた「公金受取口座登録の意向確認書」には、どう向き合えばよいのか

振込額と非課税の線を確かめたあとに待っているのが、行政から送られてくる書類への対応です。2026年の夏以降は、口座の登録に関する新しい郵便物が加わっています。

6.1 「みなし同意」とは、返送しないと何が起こる仕組みなのか

給付金などを早く届けるために、政府はマイナンバーに紐づいた「公金受取口座」の登録を進めています。その一環として、まだ登録していない年金受給者に対し、2026年8月頃から順次、いま年金を受け取っている口座をそのまま公金受取口座として登録してよいかを尋ねる書類が発送されています。

この仕組みで気をつけたいのは、断りの手続きを期限までに取らなかった場合、同意したものとみなして口座が登録される点です。返送しないという選択が、そのまま登録につながります。

6.2 年金の口座を紐づけたくないときは、どの手続きを踏むことになるのか

給付金は受け取りたいけれど、いつも使っている年金の口座をマイナンバーに紐づけるのは避けたい。別の口座で登録しておきたい。そう考えている場合、書類をそのままにしておく対応は取れません。

年金の振込口座を登録しない意思を示すには、同封されている案内に従って、届いてから45日以内に「不同意申出書」を返送することになります。

別の口座を登録したい場合は、自動で登録されてしまう前に、マイナポータルなどでご自身の手で口座を登録しておく形になります。何もしないまま期限を過ぎると、年金の振込口座が公金受取口座として登録される流れです。

6.3 口座登録に便乗する詐欺には、どんな手口が想定されるのか

全国規模の手続きが始まると、それに乗じた詐欺が出てきます。「登録が済んでいないので年金が止まります」「代わりに手続きをするのでキャッシュカードを預かります」といった電話や訪問が想定されます。

意向確認書に関わる手続きで、ATMの操作を求められたり、暗証番号を尋ねられたりすることはありません。少しでも不審に感じたときは、警察や自治体の窓口へ相談してください。

橋本 優理
この書類は、放っておいた側が登録される形になっています。渡す先のお子さんやお孫さんとは離れて暮らしている方も多いので、どの封筒がいつ届くのかだけでも、あらかじめ共有しておいていただけたらと思います。届いた封筒を一緒に開けられる人がいるかどうかで、期限の45日が余裕にも不足にもなります。

7. 9月に届く「扶養親族等申告書」は、翌年の手取りにどう効いてくるのか

年金を受け取っている方にとって、秋は翌年の手取りが決まる時期です。なかでも「扶養親族等申告書」は、引かれる所得税の額に直接つながる書類です。

正式には「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」といい、翌年に年金から差し引かれる所得税を計算するときに、各種の控除を反映させるために使われます。対象となる方には、日本年金機構などから送られてきます。

配偶者や親族を扶養している場合、記載して提出することで控除が反映され、源泉徴収される税額が抑えられる形になります。渡す分を年金から出そうとしている方にとっては、手元に残る額が変わる書類だということです。

期限に遅れたり出し忘れたりした場合でも、その後の支払いで計算をやり直したり、確定申告で精算したりする道は残されています。とはいえ、届いたときに出しておけば済む話でもあります。

7.1 提出を忘れると、所得税はどれくらい増えることになるのか

この申告書を出さないままにすると、配偶者控除や扶養控除といった人的な控除が反映されず、源泉徴収される所得税が増えることがあります。その影響は、翌年2月の年金の支払いで手取りが減るという形で表れます。

多く引かれてしまった分は、あとから確定申告(還付申告)をすれば取り戻せます。ただ、慣れない手続きを1つ増やすことになりますから、封筒が届いた時点で中身を確かめ、早めに返送する形にしておきたいところです。

8. 年金の受取口座が凍結されたとき、家族は何に直面するのか

年金の手続きや税金の管理をご本人だけで抱えていると、いざというときに動けるのがご本人しかいない状態になります。

ここでは、口座が止まったときと、亡くなったあとの年金の扱いを確かめます。

8.1 認知症や本人の死亡で口座が止まると、どこまで動かせなくなるのか

名義人が亡くなったことを金融機関が把握すると、遺産分割をめぐる争いを避けるために口座はすぐ凍結されます。年金の振込口座であっても同じです。凍結されると入出金ができなくなるだけでなく、水道光熱費などの自動引き落としも止まります。

亡くなる前であっても、認知症などでご本人の意思が確認できないと金融機関が判断した場合、不正な利用や財産を守る観点から事実上の凍結状態となり、ご家族であっても生活費や介護の費用を引き出せなくなることがあります。

ただし、認知症による凍結の場合は、亡くなったときとは扱いが違います。年金の振込や公共料金の自動引き落とし自体は続くのが一般的です。それでも、窓口での引き出しや口座の変更はできなくなりますから、動けるうちに備えておく必要があります。

8.2 亡くなった月の年金を受け取る「未支給年金」は、誰がどう請求するのか

年金は亡くなった月の分まで受け取る権利があります。年金は偶数月(2・4・6・8・10・12月)の15日に、その前月と前々月の2カ月分がまとめて支払われる後払いの仕組みです。そのため、亡くなった時期やそれまでの受給の状況によって、受け取っていない分が残ります。

この残った分を「未支給年金」と呼びます。故人の口座が凍結される前に振り込まれてしまう場合や、未払いのまま残る分がある場合、生計を同じくしていた3親等内の親族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹など)が、決められた順位に従ってご自身の名義で請求できます。

手続きは、年金事務所または街角の年金相談センターへ「受給権者死亡届(報告書)」を出し、あわせて「未支給年金・未支払給付金請求書」を提出(または郵送)する形になります。

8.3 未支給年金を受け取った遺族の所得は、どういう扱いになるのか

受け取った未支給年金は、故人の遺産として相続税の対象になるのではなく、受け取ったご遺族自身の一時所得として所得税の対象になります。渡す側と受け取る側で扱いが変わる、という点が見落とされがちです。

一時所得には50万円の特別控除がありますから、未支給年金だけですぐに税金が出るケースはまれです。ただ、同じ年に生命保険の満期保険金など別の一時所得があれば合算されて課税される水準を超えることがありますし、ご遺族自身の所得が増えることで住民税が課されない世帯の線を越えてしまうこともあります。死後の手続きには税の側から見た影響も伴うことを、ご家族のあいだで共有しておきたいところです。

橋本 優理
生きているうちに少しずつ渡していく形を選ばれる方は、この凍結の話を聞いてから決められることが多いです。渡す時期を先に延ばすほど、動かせるうちに動かせなかった、という場面に近づいていきます。まずは年金の受取口座がどこで、ご家族の誰が把握しているのかを、書き出して共有するところから始めてみてください。

9. 年金の手取りと非課税の判定について、よく寄せられる質問を確認

9.1 Q1. 遺族年金は、住民税非課税世帯の判定に含まれるのか

A. 含まれません。遺族年金や障害年金は、法律で非課税の所得と定められています。そのため、遺族年金をどれだけ受け取っていても、住民税の計算や「住民税非課税世帯」の判定に使う所得には入りません。判定は、老齢年金などの課税される所得だけで行われます。

9.2 Q2. 住民税非課税世帯向けの給付金は、毎年受け取れるのか

A. 毎年必ず受け取れるものではありません。非課税世帯に向けた臨時の給付金は、物価の高騰への対応など、その時々の経済対策として決められる一時的なものです。一方で、制度として定められている「年金生活者支援給付金」のような支援は、要件を満たしていれば続けて受け取れます。

9.3 Q3. 自己破産をすると、将来受け取る年金は差し押さえられるのか

A. 公的年金(国民年金・厚生年金)を受け取る権利は、国民年金法と厚生年金保険法によって差し押さえが禁じられています。ですから、自己破産をしたことで公的年金を受け取れなくなることはありません。ただし、すでに銀行の口座へ振り込まれたあとの現金については、差し押さえの対象になる可能性があります。

額面と手取りの差がどこで生まれるのかを、平均受給額の一覧とあわせて追いたい方は、【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説でくわしく解説しています。

10. 【独自試算】年110万円を年金から子や孫へ渡すと、手取りにはいくら残るのか

ここまでみてきた平均年金月額は、いずれも税や社会保険料が引かれる前の額面です。お子さんやお孫さんへ年110万円を渡すとして、その分は額面からではなく、引かれたあとに口座へ入る額から出ていきます。差し引いたあとに1年分でいくら残るのかを、同じ前提のうえに並べてみます。

前提は次のとおりです。

  • 額面は「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」の平均年金月額を使います。70歳の厚生年金15万455円、70歳の国民年金6万1011円、89歳の厚生年金16万6767円の3つです。厚生年金の額には国民年金の分が含まれています
  • 年金以外の収入はなく、受け取る額は1年を通じて変わらないものとします。年額は月額を12倍して出します
  • 額面から差し引かれる所得税・住民税・介護保険料・公的医療保険料の合計を、額面の5%・10%・15%の3通りと仮定します。実際の割合はお住まいの自治体や年齢、扶養の状況によって変わるため、ここでは計算を見やすくするための仮定として置きます
  • 渡す額は年110万円とし、暦年で1回、年金の手取りのなかから出すものとします
  • 金額はいずれも約・目安であり、保証ではありません

まず70歳の厚生年金です。月額15万455円を12倍すると、年額は180万5460円になります。差し引かれる割合を5%と置くと引かれる額は約9万273円で、手取りは約171万5187円です。ここから110万円を渡すと、残るのは約61万5187円。月あたりにならすと約5万1265円です。

同じ額面で、差し引かれる割合を10%にすると、引かれる額は約18万546円、手取りは約162万4914円。110万円を渡したあとに残るのは約52万4914円で、月あたり約4万3742円です。15%まで上がると、引かれる額は約27万819円、手取りは約153万4641円、残るのは約43万4641円で、月あたり約3万6220円まで下がります。

額面は同じ180万5460円のままなのに、差し引かれる割合が5%から15%へ動くだけで、渡したあとに残る額は約61万5187円から約43万4641円へ、約18万546円縮みます。額面だけを見て渡す額を決めると、この幅がそのまま暮らしの側にしわ寄せされることになります。

次に、額面そのものが違うとどうなるかです。89歳の厚生年金16万6767円で同じ計算をすると、年額は200万1204円、10%を引いた手取りは約180万1083円。110万円を渡したあとに残るのは約70万1083円で、月あたり約5万8423円です。70歳の約52万4914円と比べると、年で約17万6169円、月にすると約1万4680円の差になります。額面の月額差1万6312円のうち、9割ほどが残る額の差として表れる形です。

最後に国民年金だけの場合をみておきます。70歳の平均6万1011円を12倍すると年額は73万2132円で、10%を引いた手取りは約65万8918円です。渡そうとしている110万円のほうが手取りを上回るため、年金の手取りだけで年110万円を渡すことはできません。不足するのは約44万1082円で、渡すとすればその分は預貯金など別のところから出すことになります。

ここで見ていただきたいのは残った額の大きさそのものではなく、額面が同じでも差し引かれる割合で残る額が動き、額面が違えばその差がほぼそのまま残る額の差になる、という関係のほうです。差し引かれる割合は仮定であり、実際の税額や保険料は所得や自治体によって異なります。預貯金や投資信託などから渡す分を用意する場合は、値動きによって元本割れが起こることもあります。渡す額と時期を決める前に、年金の見込み額は年金事務所やねんきんネットで、税の扱いは税務署や税理士に、ご自身の状況にあてはめて確かめてください。

11. 【監修者コメント・村岸理美】平均年金月額は令和6年度の実績で、2026年度の改定率とは時点が違う

村岸 理美

今回のデータで最も注目していただきたいのは、63歳の厚生年金が6万8758円、64歳が8万3901円と落ち込んだあと、65歳で14万9862円へ跳ね上がっている点です。これは年齢とともに年金が増えていくという意味ではありません。64歳までの欄には、繰上げ受給を選んだ方や、特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分だけを受け取っている方が混ざっています。厚生年金は報酬比例の仕組みですから、平均額の上下は制度の切り替わりと働き方の違いを映したものとして読んでいただきたいところです。

あわせて補っておきたいのが、数字の時点です。1歳刻みの平均月額は令和6年度の実績で、記事の冒頭にある国民年金1.9%・厚生年金2.0%という改定率は2026年度のものです。時点が違うため、平均月額に改定率を掛けて自分の額を出す、という使い方には向きません。また、ここでの厚生年金の額には国民年金の分が含まれていますので、上乗せ部分だけの金額として受け取らないようご注意ください。

記事中の試算のように、差し引かれる割合を5%から15%まで動かすと、同じ額面でも渡したあとに残る額は大きく変わります。ここで補っておきたいのは、この割合が仮定であって、実際には所得の水準、お住まいの自治体、扶養している方の有無、そして75歳以上かどうかで医療保険の制度そのものが変わる、ということです。ご自身の実際の割合は、6月に届く「年金振込通知書」で、額面と振込額を突き合わせれば出せます。平均値のどちら側に近いかではなく、ご自身の通知書の数字で確かめてみるとよいでしょう。

ファイナンシャル・プランナーとしてお伝えしたいのは、渡す額は毎年決め直してよいということです。一度決めた額を続けなければならないわけではありませんし、住民税が課されない世帯の線をまたぐかどうかで、医療費や介護費の負担も動きます。CFPとして家計相談を受けるなかでも、渡す額を先に固めてしまい、あとから暮らしのほうを削っているケースを見てきました。まずはねんきん定期便やねんきんネットでご自身の見込み額を確かめ、そのうえで税務署や市区町村の窓口に、ご自身の数字を持って相談してみることをお勧めします。