12. 積立は続けているのに、預けたままのまとまったお金だけが何年もそのままになっている。ファイナンシャルアドバイザー・長井 祐人が語る、置いておける年数から決めていく順序

30歳代は、働き始めてからの年数が積み上がり、毎月の積立を無理なく続けられるようになる一方で、預貯金の口座にもまとまった額が溜まってくる時期です。前半でみたように、この年代の強みは、使うまでの期間を長く取れることにあります。ただ、その強みが効くのは、実際に運用に回っているお金だけです。ご相談の現場で感じるのは、積立の設定を終えた時点で「やるべきことは済んだ」と感じてしまい、口座に置いたままの部分だけが判断を保留されたまま何年も過ぎていく、という方が多いことです。積立が続いているという安心感があるので、置いたままのお金は問題として立ち上がってきません。相談の場では次のような声を耳にします。

12.1 大きく増やさなくていいので、置いたままのお金にも働いてもらいたい

30歳代(ご相談者)
「会社員として働きながら、非課税の口座での積立と、保険を使った積立は続けています。それとは別に、銀行の口座に置いたままのまとまったお金があります。もう何年もそのままなので、そろそろ何かしたほうがいいとは思っています。大きく増やさなくてもいいので、値動きの激しいものは避けたいです。ただ、老後のためのお金と考えているので、10年くらいはほったらかしでも構いません。すぐに使う予定もありません。それでも、置いておくだけで本当に増えるものなのか、途中で必要になったときに戻せるのかが分からず、手が止まっています」

相談の場でも、毎月の積立は続けられているのに、口座に置いたままの資金だけが何年も動かないままという方に数多くお会いします。

12.2 【ファイナンシャルアドバイザー・長井 祐人が回答】置いておける年数が、選べるものを決める

長井 祐人

長期間使う予定のないまとまったお金がある場合は、資産運用を前向きに検討しましょう。
昨今の物価上昇によって、同じ金額でも購入できるものが少なくなり、お金の価値は実質的に目減りしています。
例えば、これまで100円で購入できたものが150円必要になるといった状況です。

まとまったお金を運用する際には、まず投資目的や投資期間、どの程度のリスクを受け入れられるかを明確にし、その条件にあった商品を選ぶことが大切です。
一般的に大きなリターンを期待するほど、その分リスクも大きくなります。

また、運用するお金とは別に、万が一の際に備えた生活防衛費を準備しておくことも忘れないようにしましょう。

12.3 ポイント1:置いたままのお金を、物価の上がり方と使う時期の両方で見直す

預貯金に置いておけば、金額そのものは減りません。ここは確かです。けれども、物価が上がっていくと、同じ金額で買えるものは少なくなっていきます。額面は変わらないのに、そのお金で手に入るものが減っていく。これが、置いたままにしているお金に起きていることです。しかも、金利がごく低い水準にとどまっていた期間が長く続きましたから、受け取る利息で物価の上がり方を追いかけるのは難しい状況でした。「置いておけば減らない」というのは額面の話であって、買えるものの量の話ではない、と受け取っていただくのがよいと思います。そのうえで、動かす前に決めておきたいのが、そのお金をどの時期に使うのかです。数年以内に使う可能性があるお金、住まいや暮らしの道具を入れ替えるような時期の読めるお金、そして老後のように何十年も先に使うお金。この三つは、置き方がまったく違います。30歳代の方にとって、老後のためのお金は、いちばん長く置いておける層です。ところが、この層と手元の生活費が同じ口座に一緒に入っていると、どちらの性格に合わせて置くのかが決まりません。決まらないので、結果として全部が動かないまま残ります。まず口座の中身を、使う時期で切り分けるところから始めてください。

12.4 ポイント2:満期のある資産と値動きに任せる資産を、同じ表の同じ欄で比べる

切り分けができたら、長く置ける層をどう持つかを考えます。ここで並べて比べていただくのが、満期のある資産と、値動きに任せる資産です。債券は、満期まで持てば決まった利息を受け取り、満期に額面が戻ってくることを前提にした資産です。いつ、いくら受け取れるかが決まっているので、値動きの激しいものは避けたいという方には向いた面があります。ただし、満期を待たずに売る場合は、その時点の価格での売却になりますから、受け取る額が買ったときを下回ることもあります。投資信託は、株式や債券をまとめた入れ物で、値動きをそのまま引き受ける形です。受け取る額が決まっていない代わりに、長く持ち続けるほど増える可能性の幅は広くなります。運用で増えた分に課税されない枠を使うなら、増える幅がある資産のほうが、枠を活かしやすいという面もあります。貯蓄性のある保険も候補になります。保障が付いていて、決まった条件で長く積み上げていく形ですが、加入から間もない時期にやめると、払い込んだ額を下回るのが一般的です。比べるときは、表示されている利率や利回りの数字だけを見ないことが大切です。どういう仕組みで増えるのか、いつ受け取るのか、途中で戻すときにどう扱われるのか、かかる費用はいくらか、受け取るときの税はどうなるのか。同じ表の同じ欄で並べないと、数字の大きいほうが良いものに見えてしまいます。

12.5 ポイント3:ほったらかしにできる年数と、途中で戻すときの条件を先に確かめる

最後が、いちばん大切なところです。「10年くらいはほったらかしでも構わない」とおっしゃる方に、必ず区別していただいているのが、積み立てる期間と、持ち続ける期間は別のものだということです。毎月の積立をやめたとしても、持っているものを売らなければ、運用はそのまま続いています。積立を何年続けるかは家計の都合で決まりますが、持ち続ける年数は、そのお金を使う時期で決まります。そして結果に効いてくるのは、多くの場合、この持ち続ける年数のほうです。ですから、動かす前に「このお金は何年ほったらかしにできるのか」を数えてしまいます。10年なのか、20年なのか、それより先なのか。年数が長ければ、途中で値下がりする局面が来ても、戻す時間があります。年数が短ければ、満期のある資産を中心に置いたほうが落ち着きます。年数が決まったら、次は途中で戻すときの条件です。外貨で運用する形のものは、受け取る利息の水準が高めであることが多いのですが、円に戻すときの為替の相場によって、手元に入る額が変わります。円が高くなっている時期に戻すことになれば、利息で増えた分が目減りすることもあります。ですから、いつ円で必要になるのかが決まっていないお金に、外貨で運用する形のものを充てるのは向いていません。保険の形をとるものには、途中でやめるときに差し引かれる費用が決まっているものもあります。払い込んだ額と受け取る額が釣り合うのが何年目なのかを、契約の前に確かめておいてください。

ほったらかしにすることと、放置しておくことは同じではありません。何年置いておけるのかを先に数え、その年数に合う形を選び、そのうえで手を触れないでいるのがほったらかしです。年数を数えないまま口座に残しているのは、選ばないという判断を毎年続けていることになります。これは一つの考え方であり、どの形が適しているかや、費用や税の扱いは、収入やご家族の状況、加入している契約の条件によって異なります。まずは口座の残高を、数年以内に使うお金と、時期が読めるお金と、何十年も先に使うお金に分けて書き出してみてください。そのうえで、外貨の扱いや途中でやめるときの条件については、契約ごとに違いますので、専門家に確認しながら進めることをおすすめします。

13. まとめにかえて

毎月10万円を15年積み立て、その後15年そのまま保有した場合の資産額は約3525万円という計算でした。入金は15年目で終わっていますから、そこから先に伸びた分は、手を触れなかった期間が作ったことになります。

独自試算では、同じ月10万円を30年間入れ続けた場合と並べました。追加した元本の大きさに比べて、運用益の差は思ったほど広がりません。早く入れて長く置いたお金と、後から入れたお金では、働いていた時間が違うためです。

積立の年数は家計の都合で決まりますが、保有の年数はそのお金を使う時期で決まります。まずは、いま積み立てているお金を何歳で使い始めるつもりなのかを一行書き足してみてください。そのうえで、非課税の枠の残りや税の扱いは口座を開いている金融機関や税務署の窓口で、年金の見込み額は年金事務所や「ねんきんネット」で確かめながら進めていただければと思います。投資には元本割れの可能性があり、制度も今後見直される場合があります。

参考資料

長井 祐人