1. 1,900円から2,315円、そして2,040円。1カ月で山を描いた株価

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

まず値動きを追う。直近1カ月の起点となる8月7日の終値は1,900円で、これがこの1カ月で最も低い終値でもある。

そこから水準はじりじりと上がった。8月中旬は1,900円台から2,100円あたりを行き来していたが、8月20日に2,220円へ。前営業日の2,024円から9.7%高い水準への切り上げである。

その勢いのまま8月28日には2,315円をつけた。この1カ月で最も高い終値だ。ただ、そこが天井だった。9月に入ると2,100円台まで下げ、9月4日には2,228円まで戻したものの、9月7日の終値は2,040円。前営業日から8%安い水準まで沈んでいる。

1カ月で最も高い水準からは12%近い下落幅にあたる。もっとも起点の1,900円と比べれば+7.4%で、1カ月を通せば上昇である。山を作って半分ほど戻した、という形だ。

バリュエーションを見ておく。9月7日のPER(株価収益率)は30.72倍、PBR(株価純資産倍率)は12.87倍だった。前営業日はそれぞれ33.55倍・14.05倍である。PBRが12倍を超えるということは、株主が持つ純資産の12倍以上の値段が付いているという意味になる。情報・通信業のなかでも高い水準だ。

なぜ下げたのか。この1カ月に新しい決算が出たわけではないので、理由を一つに絞ることはできない。バリュエーションの水準そのものへの調整、成長株全般の地合い、生成AI関連への期待の揺れなどが重なった可能性がある。ただ、水準の高さそのものが値動きを荒くしているという見方は成り立つ。

2. 営業利益率3.1%から15.2%へ。5期で何が入れ替わったのか

株価の話をここで一度置いて、損益計算書に降りる。この会社の5期の姿は、はっきりした形をしている。

売上高は2022年5月期の204億円から、255億円、338億円、432億円と積み上がり、2026年5月期は537億円になった。4期でおよそ2.6倍である。情報・通信業325社の売上成長率の中央値が7.8%であることを踏まえれば、伸びの速度は別の水準にある。

ところが利益は同じようには伸びていない。営業利益は2022年5月期の6億円から2023年5月期は1億円へ落ち込み、当期純利益は▲1億円の赤字だった。そこから13億円、28億円と戻し、2026年5月期に81億円へ跳ねている。

営業利益率の推移が、この会社の局面をいちばん端的に示す。3.1%、0.8%、3.9%、6.5%、そして15.2%。売上が2.6倍になる間に、利益率が5倍近くになった。増収と利益率改善が同時に起きた局面である。

2026年5月期の実績を整理すると、売上高537億円(前期比+24.4%)、営業利益81億円(同+192.3%)、経常利益81億円だった。売上が2割強伸びる間に、営業利益は3倍近くになっている。

ここで一般的な見方と数字のズレを一つ指摘しておきたい。クラウドサービスを提供する会社と聞けば、赤字を掘りながら顧客基盤を広げる姿を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。ところがこの会社の営業利益率15.2%は、情報・通信業325社の営業利益率の中央値8.6%を上回っている。成長への投資を続けている会社が、同時に業種平均を超える利益率を出している。この二つは同時に成立する。

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出所:Sansan株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:Sansan株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

3. 当期純利益67億円とROE38.8%。数字の質をどう見分けるか

利益の中身も確かめておきたい。2026年5月期の当期純利益は67億円、EPS(1株当たり利益)は53.58円、ROE(自己資本利益率)は38.8%だった。前期のROEは2.9%で、情報・通信業325社の中央値は11.1%である。1期で桁が変わっている。

ただ、この67億円をそのまま実力と読むのは早い。経常利益81億円に対して税引前利益は93億円で、間に特別利益15億円と特別損失3億円が挟まっている。つまり最終利益には、事業の外から来た12億円分の押し上げが乗っている。前期の当期純利益4億円との比較で約16倍という数字になるのも、前期に特別損失が重かった影響を含む。

それを差し引いても、営業段階での改善は本物である。営業利益81億円は特別損益とは無関係に積み上がった数字だ。見るべきは最終利益の倍率ではなく、営業利益率が15.2%まで来たという事実のほうだろう。

会社自身も、事業の立て付けを言い換えている。同社によれば、クラウドソフトウエアにテクノロジーと人力オペレーションを組み合わせ、名刺、請求書、契約書といった企業活動の中で発生する非定型かつアナログな情報を高精度にデータ化するサービスを提供している。そのうえで、これまでDX(デジタルトランスフォーメーション)として定義してきた事業領域を、AX(AIトランスフォーメーション)として再定義したという。生成AIで大きな価値を創出するには、企業固有の活動に紐づく構造化・正規化されたデータが重要になるからだと説明している。

2027年5月期の会社予想は、売上高637億円(前期比+18.5%)、営業利益125億円(同+52.9%)、当期純利益83億円(同+23.6%)、EPS66.41円である。営業利益の伸び率が最終利益の伸び率を大きく上回るのは、前期の最終利益に特別利益が乗っていた反動と読み取れる。予想年間配当は1株5.0円で、2026年5月期の実績2.5円から倍になる見込みだ。

1カ月で山を描いた株価と、5期かけて姿を変えた損益計算書。並べてみると、株価が織り込んでいるのは通り過ぎた実績ではなく、この先も利益率が上がり続けるという前提であることがわかる。株価の1日の振れより、営業利益率の刻みを追うほうが、この会社の姿はつかみやすい。

4. 筆者コメント

利益の水準が5期で別物になった会社の株価が、なぜ好調な決算のあとに下げるのか。ここには成長株を読むときの核心がある。

株価が値付けしているのは、過ぎた実績ではなく先の利益だ。1株当たり純資産は158円台。それに対して10倍を超える値段が付いているということは、いま見えている純資産ではなく、これから積み上がる利益を先に買っているという意味になる。

織り込みが厚い株は、実績が良くても期待の微調整で動く。良い決算が出たあとに下げるのは、材料が悪かったからではなく、良い材料がすでに値段に入っていたからだと考えられる。

ならば投資家が見るべきものは何か。私は、期待の中身が更新されるタイミングだと考える。利益率の刻み、契約の積み上がり方、そして会社が示す前提の変化だ。日々の株価の上下は、その更新の合間に起きる揺れにすぎない。

水準が高い株ほど、値動きの理由を株価の側に探しても答えは出ない。決算の側に置いておくことをおすすめしたい。